今回スポットライトを当てる映画は2019年3月1日に公開された映画「グリーンブック」
グリーンブックとは人種差別が色濃く残る時代、黒人の宿泊可能なホテルやレストランなどを掲載した黒人専用のガイドブックのことである。
そのガイドブックに沿って旅をしていく姿を見るにつれ、見ている私たちにも微かな変化と清々しさをもたらしてくれるーそれがアカデミー賞作品賞を受賞した映画「グリーンブック」である。
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グリーンブックのあらすじ
1962年ニューヨークのナイトクラブで用心棒を務めていたトニー・リップ・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)はナイトクラブの休館を機に、黒人ピアニストであるドクター・ドナルド・シャーリー(マハーラシャ・アリ)の運転手として雇われることになった。
シャーリーはとある理由から、あえて差別が強い南部へのツアーを計画しており、運転手としてだけではなく、勇敢さも見込んでトニーを雇うことにしたのである。
もちろん、当時の風潮に倣うようにトニーも差別主義者である行動が垣間見られたが、トニーは家族を養う為、仕事を買って出るのである。
こうして奇妙な2人の旅が始まった。
シャーリーのピアノの腕前は折り紙付きであり、かの有名なストラヴィンスキーも「神の域の技巧」と称した程であった。
音楽の知識など皆無なトニーもシャーリーのピアノ演奏に触れ、尊敬の意を表すようになっていく。
才能を認め、ともに時間を共有していく中でトニーは黒人差別の実情にも触れていくこととなる。
シャーリーを認めれば認めるほど、2人で時間を共有すればするほど、差別の理不尽さに腹を立てるトニーであったが、一転、当事者であるシャーリーは常に冷静さを失わない。
どこか世間への諦めにも見えるその態度だが、それこそシャーリーがこの世界で生きていく為に必要不可欠な心得でもあった。
グリーンブックあらすじ・ネタバレラスト(結末)2人の友情は
黒人差別によって巻き起こる道中の理不尽な逮捕や暴行事件など様々なトラブルを経て2人は長旅を終える。
それぞれ元の生活に戻った2人であったが、2人の中での友情は確かに育っていた。
意を決したシャーリーはトニーを訪ね、トニーとその家族らもまたシャーリーを温かく歓迎し、2人の友情は旅を終えても続いていくのであった。
グリーンブック解説
この物語は実話である。
差別を題材にした映画は暗くなりがちであり、また、重い疑問を私たちに投げかけることも多い。
加えてロードムービーともなれば間延びしてしまう懸念もある。
だがグリーンブックは1つ1つの問題に対し時間を掛けすぎずテンポの良い展開を繰り出す。
また、2人のやり取りを通して随所に笑い要素を含むことによってもそのような懸念を一掃している。
2人がなぜ数々の重い現実と直面しながらも時には笑い、友情を育むことができたのか。
それはシャーリーとトニー、2人が正反対の性格を持ち合わせていたからということに尽きるのではないだろうか。
シャーリーは常に自身を完璧な状態で保つ必要があり、それは発言や所作の一つ一つからも見て取れる。
だがその性格はいつしか彼自身を縛り付け、一流階級を魅了するピアノですら自分の好きなように演奏することはできなかった。
一方のトニーは義理深いが喧嘩っ早く、発言や所作も男くさかった。
ただ、トニーが差別主義者であったことは事実であったが、トニーがシャーリーを認めたのは決して才能があったからというだけではなく、トニーが良くも悪くも悪ガキのような純粋さを持ち合わせおり、シャーリーをフラットに見ることができていたからではないだろうか。
現に映画の中で2人が声を荒げて喧嘩をするシーンがあるが、シャーリーは黒人にも白人にもなりきれない、たった一人で生きる心細い自分の思いをぶちまける。
そのきっかけはトニーが自分のことを黒人よりも黒人らしいと言い放ったことであったのだが、これはシャーリーのことを心のどこかで黒人であると差別し、忌み嫌っていれば決してできない発言だったのではないだろうか。
純粋に一人の人間として対等に、分け隔てなくシャーリーのことを見ていたからこそ発言することができたのではないかと考えられる。
トニーの「本当の意味で」偏見を持たない純粋さが徐々にシャーリーの心を溶かし、一人に慣れていた心に寂しいという感情をもたらしたのである。
あえて差別が色濃く残っている南部へのツアーを決意したからこそ出会えた友情。
南部へ赴いたシャーリーの動機は何か…
その勇気あるたった1つの行動によって2人の歴史は自然な変化を見せ、その変化は見ている私たちにも感動をもたらしてくれる。