2019年公開の『108~海馬五郎の復讐と冒険~』は脚本・監督・主演共に日本アカデミー賞受賞脚本家の松尾スズキが手掛けます。
ヒロインとして出演するのは、アイドルとしても一世を風靡した経歴を持ち、「東京日和」で日本アカデミー賞優秀主演女優賞受賞の中山美穂。
主人公の心をかき乱す元女優の美人妻を演じます。
長年の友人役には秋山菜津子。
実際松尾スズキと30年以上も交流があるという秋山菜津子は舞台を中心に多くの賞を受賞した経歴を持つ女優です。
確かな演技力に、この人合っての面白さと言っても過言ではありません。
また、このまともでない多数のキャラクターに混ざりただひとりまともな感覚の持ち主を演じる坂井真紀を迎え、同じく脚本の経験を持つ岩井秀人、LiLiCoや栗原類など個性派が揃い、喜劇の新境地を作り上げます。
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『108~海馬五郎の復讐と冒険~』あらすじ
脚本家として新映画の制作に取り掛かる海馬五郎(松尾スズキ)に、オーデションに来た若い女性が五郎の妻、綾子(中山美穂)のSNS投稿を見せます。
そこには、体をくねらせ独特なダンスを踊るコンテンポラリーダンサー、ドクタースネイクへの愛を綴った投稿が。
ショックと怒りで離婚を考え出す五郎でしたが、モテ男の友人、糸井(岩井秀人)は、今離婚をすると、財産半分を妻に渡さなければならないことを教えます。
裏切られた上に財産まで渡さなければならないなんてわりが合わないと取り乱した五郎は、綾子のSNSについた、「いいね」の数、108人の女性を抱くことで金を使い果たそうと考え、復讐劇の幕を開けたのです。
綾子はドクタースネイクのツアーでひと月ほど家を空けることになります。
五郎は、綾子のいない間に財産を使い切らなければと、早速風俗に通いだします。
しかし、思うように金を使うことができず、高級風俗嬢のあずさ(土居志央梨)を呼び、復讐の手助けをしてもらうことになりました。
『108~海馬五郎の復讐と冒険~』ネタバレラスト
事情を知ったあずさは、入れあげているホストの聖矢(大東俊介)にも話を持ち掛け、あらゆる方法で女を抱きまくる手段を考えます。
五郎と糸井がくだらない復讐劇に身を投じている最中も、五郎の妹、マリ(坂井真紀)は、そう長くない父親の看病に追われています。
病状が悪化するたびに五郎に病院へ来るように促しますが、女を抱き、数を減らすことに一生懸命な五郎にはまるで他人事。
父の葬儀中でもお構いなしで、呼び出されれば急いで指定の場所へ出向き、残り人数を減らしていくのです。
そうしている間にも綾子はSNSを投稿。
仲睦まじくデートを重ねる綾子の姿に怒りがこみ上げます。
しかし、感情とは反対に五郎の体力も限界。
この際自分が抱かなくてもOKなどという不思議なルールを付け加え、50人以上の男と女が裸で交じり合う「女の海」を実現させます。
裸で「女の海」に飛び込む自分の姿を綾子に見せ、自分の苦しみを訴えます。
一気に人数はこなしたものの、目標人数までまだ手が届きません。
時間と残るわずかな体力の為に一気に終わらせる目的で、聖矢は五郎に女だらけの島、「女島」計画を提案しました。
出発の日、マリは信憑な面持ちで五郎に携帯電話を見せます。
そこにはドクタースネイクと変顔をしたマリのツーショットがあり、五郎の表情は凍り付きます。
実は、綾子はドクタースネイプとの疑似恋愛を楽しめるアプリを使い自分のSNSにあげていたのです。
全て自分の勘違いであったと半ば放心状態のまま、五郎と聖矢は船で女島を目指す他ありません。
船の上で今から行われる計画に浮かれる聖矢ですが、五郎はどこへ流れ着けばよいのかわからず途方に暮れるのです。
『108~海馬五郎の復讐と冒険~』見どころ3点
1点目:未だかつてない復讐劇
妻に浮気をされた復習劇はよくある話です。
腹いせに浮気をやり返す流れも珍しくはありません。
しかし、「いいね」の数だけ女を抱くという馬鹿馬鹿しい復習方法の思い付きには度肝を抜かれます。
しかも、散々騒いで周りを巻き込んだ挙げ句、すべては自分の勘違いというシナリオ。
膨らんだ妄想と勝手な思い込みに気が付いた主人公の、行きつくところのない気持ちが切なすぎて笑えます。
今作は松尾スズキが脚本、監督、さらに主役までもこなすというまさに想像を超えた制作を試みます。
精神も肉体も全ての力を消費するだろうことは予想できますが、松尾スズキ本人も自分じゃないとだめだと公言しているとおり、1人3役以上の役割をこなしたからこそ、揺るぎの無い面白い仕上がりになったのだと納得させられるのです。
2点目:裸体で埋もれる画面
18R+指定作品となったことは明解。
50体程の男女の裸体が入り乱れ、決して美しいとは言えない画面が目の前に広がります。
男女問わず性的な高揚も興奮も無いと思われる描写に、怖い物見たさに近い感覚が支配するのです。
下ネタ満載作品でありながら、なぜ、イヤらしさが無いのか不思議で、絡み合うシーンこそが笑いの場であることに興味が湧きます。
それにしても、シート上で行われる裸体だらけの「女の海」は斬新で、今作品の代表的な見どころになることでしょう。
3点目:中山美穂の多面性
中山美穂演じる綾子とは実在する人物なのか、それとも五郎の妄想の中の人物なのか最後まで判断に迷うミステリアスさがあります。
滲み出る妖艶な美しさを感じ、1枚ベールを包んだような夢心地の雰囲気にうっとりさせられます。
人の心を捉えて離さない魅力はいったいどこから感じられるのでしょうか。
大人の男性が、お金も時間も、望むものはすべて与えたいと思える魅力を感じ、彼女の歳の取り方が羨ましくも思えます。
夫が嫉妬に狂いながらも妻の悶える姿を想像し、体を熱くさせることからも、綾子を演じる中山美穂は人を翻弄させる女性を見事に演じ切っています。
しかし、うっとりするシーンから一変、五郎が綾子に殴りかかる妄想シーンは、突然、多ジャンルの作品に入れ替わったのかと思う瞬間で、狂ったように笑いながら飛びかかる中山美穂の渾身の演技も衝撃的。
これからも脳裏に焼き付いて離れないことでしょう。
また、嫉妬に狂い復讐する哀れな夫に向けた、「あなたは何にも悪くないのに」という言葉からは、大人の魅力を通り越し、魔性の女そのものです。
男性は特に背筋に冷たいものを感じるのではないでしょうか。
『108~海馬五郎の復讐と冒険~』感想
指定がついていることから、正直どれだけねっとりとした作品なのかと先入観を持って鑑賞しました。
しかし、こんなに多くの裸と、下ネタが畳み掛けるように出てくる作品でありながら、不思議とイヤらしさも、また、艶かしさも伝わってこないのです。
あくまでも喜劇。
大真面目に自分の勘違いに振り回される五郎のひとり芝居が可笑しくて、カラッと明るい面白さがあります。個々のキャラクターが強く、濃さがあるのに、その上をいく主人公。
ぶっ飛んだ思考と駄々っ子のようなチャーミングさが、イヤらしいおじさんにも、頭のイカれた変態にも見えない理由なのかもしれません。
そして気になるのは海馬五郎の復讐の集大成です。
妻の不倫が誤解だとわかった今、女島を眺めながらどんなテンションで島にたどり着くのか、または着かないのか・・・。
気になるところです。
最後に想像力を膨らませてくれる楽しみをもらったような気がします。
『108~海馬五郎の復讐と冒険~』評価
地位もお金もある中年男が嫉妬にかられ、ただただドタバタと奮闘するコメディ映画。膨らみすぎた男の妄想が恐ろしいスピードで独り歩きしていく展開の速さが面白さを後押しします。
夫婦のかたちも興味深く面白いものがあります。
長年連れ添い1番近い他人でもある夫婦関係にも、実は開けてはいけないパンドラの箱があり、除き見てしまった夫は壮絶な復讐劇を行うも自滅してしまうのです。
夫婦の関係や、誰しもが感じたことのある孤独感。
今作で感じられるナーバスな部分はあるものの、そんなことなど吹っ飛んでしまうくらいの衝撃シーンが多く、鑑賞後にも映画について語り笑い合える愉快な作品です。
面白いことは間違いありませんが、マニアックな男女の絡みと会話が休みなく飛び交うことも事実です。
指定が付いていることもあり、もちろん18歳以下の人や、下ネタや、下品な絡みに抵抗のある人は観る機会に巡り合えない可能性も感じます。
しかし、その部分だけを取っ払ってしまえば、子供でも誰でも大いに笑える作品なのです。
3月4日よりDVD・Blu-ray Disc発売開始。
※動画配信予定なし。販売のみ。