本屋大賞2017にノミネートされたベストセラー小説「コーヒーが冷めないうちに」は、「1110プロデュース」主宰の川口俊和の小説を映画化した2018年公開のファンタジー映画です。
劇団音速かたつむりの脚本・演出家として活躍の川口俊和が、2010年に手掛けた舞台作品において演劇ワークショップ用に書き起こしたもの。
舞台を見たサンマーク出版の編集長が感動し、2015年小説として出版されました。

監督は、2016年放送「重版出来!」2018年放送「アンナチュラル」の演出家として知られる塚原あゆ子。
当作品において初の映画監督を務めます。
「ビリギャル」にて日本アカデミー賞ブルーリボン賞受賞の有村架純が、過去を悔い寂しさを抱えてもなお、自らの使命と向き合う強さを秘めた主人公、時田数を丁寧に演じます。

一杯のコーヒーが過去・現在・未来を繋ぎ、個々の人生に影響を与えていきます。
今にも作品から湧き出てきそうなコーヒーの香りと熱が水蒸気となり、時空を超える描写に変わります。

都市伝説広がるひっそりと佇む喫茶店に来店した4人のエピソードを描き、空想の世界の不思議な感覚と共に、登場人物の生き方や考え方、更には、生と死についてまでも深く考えさせられる作品です。

『コーヒーが冷めないうちに』あらすじ

時田流(深水元基)が店主を務める街角にひっそりと佇む喫茶店「フニクリフニクラ」。
この店のある1席に座ると過去に戻れるという都市伝説が広まっています。
噂を聞き訪ねてくる人が後を絶ちません。

過去に戻るためにはいくつかのルールがあります。
条件をクリアしたとしても、戻れるのはたった一杯のコーヒーが冷めてしまうまでのわずかな時間
しかも何をしても何を言っても現在を変えることはできないと聞き、過去に戻ることをやめる客も多いのです。
更に、コーヒーが冷める前に飲み干さないと現実の世界に戻れなくなってしまうという信じがたいオカルト的な説明と、既に席には幽霊と化した女性が座り続けていることからその話の信憑性に怖気づいてしまう人も多いのです。

唯一コーヒーを淹れられる時田家の女性、数は、それでもやり残した何かを求め、過去に戻りたいと願う人に手助けをしています。
そして現実は変わらなくても過去へ戻る人。
彼らの未来はどのように変化していくのでしょうか

『コーヒーが冷めないうちに』あらすじ(ネタバレあり)

1人目は海外へ旅立つ幼馴染の賀田多五郎(林遺都)に素直な気持ちを伝えられない清川二美子(波留)。
口を開けば強がりばかりを口にする二美子は、彼とけんか別れ同然に離れてしまった事を後悔し、過去に戻り五郎への気持ちを再確認します。
戻ってきた二美子は、晴れ晴れしい気持ちで五郎を追ってアメリカへ旅立ちます。

2人目は認知症の妻(薬師丸ひろ子)を側で献身的に支える房木康徳(松重豊)。
夫の事すら忘れている妻を動揺させぬよう、介護士として優しく接していますが、妻が以前から夫に渡したがっていた物を受け取りに妻が元気だった頃に会いに行きます。
夫が未来からやってきた事を感じ取り、自分の病気が進行している事を悟った妻にこれからも大丈夫。
君はしっかりやれていると笑顔で伝え続け、介護士でなく夫として妻と生きることを決心しました。

3人目は近所でスナックを経営する常連客、平井八絵子(吉田羊)。
実家の老舗旅館を継ぐことを拒み、訪ねてくる妹から逃げ回っていましたが、妹はある日突然交通事故でこの世を去りました。
逃げ続けていた自分を振り返り、過去に戻り妹の気持ちと向き合います。
妹の真意を初めて知り、自分と周りの人の幸せを想い家業を継ぐことを選びます。

そして、4人目。
過去から戻れなくなってしまった母(石田ゆり子)に会いたいと願う数
です。
コーヒーを淹れられるのは自分だけなので、もちろん数には過去に戻る手段はありません。
しかし、将来を誓った新谷亮介(伊藤健太郎)の計らいによって、数は過去に戻り母との会話が叶いました。

数の止まっていた時間も動き出し、過去に戻った事で未来への一歩に変化が現れます。

『コーヒーが冷めないうちに』見どころ4点解説

ココが見どころ!
  • 爽やかでピュアな恋愛模様
  • 幸せの決断
  • 音楽によって変化する多面性
  • 時空を超えたパズル

順に解説していきます。

爽やかでピュアな恋愛模様

数と近所の美大に通う亮介との距離感が心地よさを感じます。
数を意識し出した亮介が、学祭の作品展に誘ったことをきっかけに2人の関係は客と店員、友人、そして恋人へと順調に発展していきます。
どこかいつも寂しげで感情を表に出さない数が、亮介に連れられ仲間同士との普通の学生の楽しみを経験していきます。
正直な気持ちで接してくれる亮介に心惹かれていく様子がとても微笑ましく胸がキュンとなります。
不思議な世界で繰り広げられるストーリーの中に垣間見る恋愛ドラマはこの映画のもう一つの魅力です。

幸せの決断

認知症の妻と向き合う房木役の松重豊の演技が切なく涙が溢れます。
自分の想いよりも妻の気持ちを優先し、過去の元気な妻に安心してもらうよう声をかけるシーンが心に残ります。
いがみ合いや目を覆うような事件が多い世の中で、夫婦の形や人間愛を感じることでしょう。
そして、一見しっかり者で頼りがいのある八絵子。
突然の妹の死をきっかけに感情が溢れ出します。

誰にとっても大切な人を亡くす悲しみは耐え難く、強がりをいったところで死は生きているものに大きな影響を残すことが伝わり共感がわきます
1人たくましく生きてきた八絵子を演じる吉田羊の二面性に引き込まれます。

音楽によって変化する多面性

コーヒーを淹れる時、時空を超える時、幽霊である数の母が席を立つ時、コーヒーが冷めてしまうタイムリミットが近づいている時、それぞれのシーンでの音楽が強調され、よりファンタスティックな要素を表現しています。
劇半音楽は「ちはやふる」や「四月は君の嘘」を手掛けた横山克
流石と言えるほど、特別意識していなくてもフッと時間が止まったような不思議な感覚に陥ってしまうのです。

時空を超えたパズル

数が母と再会を果たすシーンは、この作品最大の謎解きの部分です。
現在数のお腹に宿った命に未来を託し、この時代の数が母と再会できるように亮介が仕組んだのです。
未来を信じる力と強い愛こそが再会を導きました。
パズルで組み合わせたような時系列は作品を見終わった時にじっくりと謎解いてほしい部分です。
大人になっている数が、まるで小さな子供のように母を求め、過去から戻った時、まるで呪縛から解放された様に数自身の時計も動き出すことを感じます。

『コーヒーが冷めないうちに』感想

起こってしまったことは変わらなくても人の心は変われる。
だから過去に戻っても意味がないわけではない。
数が言った言葉が心に残ります。

誰でも一度は、あの場面に戻りたい、あの時からやり直したいという気持ちになったことはあるでしょう。
しかしこんな不思議な喫茶店が実際あるはずもありません。
それに、興味本位ではなく実際に過去に戻れるとしたら、自分はどんな行動をするのでしょうか。
この作品は「今」と言う時間がいかに貴重なのかを私たちに伝えています。
この瞬間さえも過去になってしまうからこそ、「今」、相手と向き合い、話をすることが大切なのだと教えてくれるのです。

後悔なしの人生を歩むことは難しいかもしれません。
しかし、悔いが残らないよう、意地を張らないように心がけることから始めればいい。
結局、未来をどう生きていくのかは自分次第なのだと改めて気が付かされます

『コーヒーが冷めないうちに』総括

絶対に失いたくないものは何でしょうか。

  • 出来なくなったことが脳裏に焼き付き嘆くばかりの時
  • 素直な気持ちをぶつけられない時
  • 未来に不安を抱え希望を持てない時
  • 誰かに背中を押してほしい時

この作品が自分の気持ちに正直になり明日を堂々と生きるきっかけになることでしょう。

4回泣けるという謳い文句のとおり、涙なくしては見難い感動作
自分が何回泣けるのかという数合わせのように作品を見ることに一生懸命になりすぎることも、また、ルールに対して細かく突き詰めてしまうことも、メッセージを受け止め損ねてしまいがちです。
是非、素直な気持ちで登場人物の人生に寄り添ってほしいと感じました。

登場人物のストレートなメッセージをあなたも受け止めてください

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