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「ファーストラヴ」と言う響きから、どんなシチュエーションを連想するでしょうか?
甘く感じる人もいるでしょうし、「失恋に繋がった」と、痛い思い出に繋がってしまった人もいる筈です。
でも大概の人は、複雑さが入り混じっているのではないでしょうか?
ひとつの感情だけで収まり切れないものかもしれません。
そして、初めての恋を振り返る行為は、自分の過去と向き合う行為にも繋がります。
その体験が、二度と思い出したくない場合であったり、激しいトラウマとなって今日まで消えず、人生に悪影響を及ぼしているとなったら、振り返りたくなるでしょうか?
女性に限らず、男性側から見ても、苦く辛い思い出になるでしょうか?
甘美な響きの奥底に秘められた過去を直視せざるを得ない映画「ファーストラヴ」を紹介します。
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『ファーストラヴ』主なキャスト
- 北川景子(真壁由紀)
- 庵野迦葉(中村倫也)
- 芳根京子(聖山環菜)
- 窪塚洋介(真壁我門)
- 板尾創路(聖山那雄人)
- 石田法嗣(小泉裕二)
- 清川翔(賀川洋一)
- 高岡早紀(早苗)
- 木村佳乃(聖山昭菜)
『ファーストラヴ』あらすじ
血まみれの洋服姿で凶器の包丁を持ったまま河川敷を呆然と歩く女子大生・聖山環菜が、父である画家・聖山那雄人の殺人容疑で逮捕された。
女子アナの入社試験後、父が勤務する美術学校で犯行に及び、美人女子大生の犯罪はセンセーショナルに報じられた。
マスコミでも活躍している臨床心理士・真壁由紀は、この事件を纏めたノンフィクションの執筆を依頼される。
義弟・庵野迦葉(かしょう)が環菜の国選弁護人でもあった為、2人で事件の真相を究明して行く。
環菜と何度も書簡のやり取りを重ね、刑務所での面会も交わすが、供述が二転三転する事に、由紀は困り果ててしまう。
そして環菜は「動機はそちらで見つけてください」と、真相からわざと突き放す様なひと言を、ぶつけてしまう。
翻弄される由紀を温かく見守るのは、夫・我聞だった。
我聞は学生時代、弟・迦葉と由紀を合わせてしまった張本人だった。
このきっかけも、今の由紀を翻弄するきっかけとなってしまった。
『ファーストラヴ』ネタバレラスト
※ここからはネタバレを含んでいます。由紀は調べて行くうちに、環菜が幼少時代、父の絵画教室でモデルとして扱われていた事実や、見て見ぬふりをしていた母・昭菜の件に辿り着く。
その頃に受けた性的虐待が関わっていた事に気づいた由紀は、当時の生徒が富山に在住している事を知り、単身乗り込んで行く。
しかしそこには、ひと足早く迦葉も到着していた。
由紀は取材を進めて行くうちに、環菜と自分には同じ陰があるのでは?と気づき出す。
それを認める為には、過去を直視する必要があった。
色欲に走って嫌悪するまでになった父との辛い思い出。
そして、義弟の迦葉と出逢った時の出来事にも。
どうしても自分の過去を受けきれなかった由紀だが、夫・我聞の抱擁もあって、立ち直る。
改めて愛の大切さを知った由紀は、迦葉と共に法廷へ赴き、環菜の裁判が始まる。
何度も供述を変えて来た環菜から語られた、父親殺害の真意とは...
『ファーストラヴ』見どころ4点
『ファーストラヴ』の鑑賞ポイントを紹介します。
極力ネタバレは無しです。
1.その殺人犯は、あの頃の私と同じ目をしていた
環菜の少女時代に追った傷を知るうちに自らの過去の傷と向き合わざるを得なくなった由紀が、心のバランスを崩しながらも段々とお互いを理解して行く場面に、心を打たれます。
性的虐待をモチーフにしています。
全ての女性に共通する訳ではありませんが、後ろめたいが為に振り返りたくないまま済ませたい過去は、誰でも持っている筈です。
由紀の姿を自分に投影した場合、相手を理解する為にそこまで振り返る事が出来るか?
若しくは、心を閉じる事で過去を拒絶しながら、上辺だけで理解しようとするのか?
観賞後、自問自答をする作品と言えます。
2.男性視線で見た場合
由紀の仕事上、かけがえのないパートナーでありながら、心の傷の因子でもある義弟の迦葉。
由紀の心の傷を熟知して、温かく擁護する夫の我聞。
芸術しか頭に無かったせいで、子供の気持ちを汲み取ってあげられなかった那雄人。
3人の男性がそれぞれの軸を持って登場します。
またその脇には、環菜を翻弄した男達も現れますが、どの男性像にも、男の本能を感じます。
性的衝動を抑えきれないまま動いた輩もいますが、中には、その衝動を抑えて暮らしたり、愛情に昇華出来た男もいます。
女性側から見たら、こんなものかと絶望するかもしれませんが、男性側から見たら、本能の部分に既視感を感じるでしょう。
3.ショートカットの北川景子に注目
主演は北川景子。由紀役の為にショートカットにした程の力の入れようです。
夫婦の場面で我聞に寄り添い介抱される場面や環菜の気持ちを理解しようとする姿は、由紀の深みを見事に表現しています。
環菜役は芳根京子。
一時期「地味女優」等と揶揄されましたが、難しい役を演じ切っています。
弁護士の迦葉役は、中村倫也。
そのイケメン振りがニヒルに転じて、表裏ある役柄を演じ切っています。
我聞役の窪塚洋介は、従来のイメージを覆す温かみに溢れた役柄です。
4.島本理生の直木賞受賞作
原作は島本理生の第159回直木賞受賞作品で、文春文庫から出版されています。
NHKでは真木よう子・上白石萌歌でもドラマ化されました。
監督は堤幸彦。「トリック」の他、多くのTVドラマや映画を手掛けています。
張り詰めた空気に満ちた独特の映像が、最後まで緊張感を緩ませません。
脇役陣も好演です。
那雄人を演じた板尾創路は、周囲に狂気的オーラを振りまく悪役を演じさせたら、文句無しでしょう。
娘の環菜を突き放す母・昭菜役は木村佳乃。
素っ気なく娘を突き放す悪い母親役も、従来のイメージを覆しています。
『ファーストラヴ』感想
重い作品です。
男女によって、捉え方が分かれます。
惨殺シーンや血糊の付いた包丁を持った女性が歩く映像は、割とありがちなサスペンスミステリーだな、ショートカットにした北川景子も綺麗だな、程度で見始めます。
ところが性的虐待がテーマと解って行くうちに、その重さに圧倒されてしまいます。
画家の娘や女子アナ試験と、普通の生活と比べたら特殊な設定の為、環菜や由紀の過去に感情移入がし辛いかな?
と思いましたが、虐待のキーワードによって、自分自身にテーマを突き付けられて行くのを、身を持って感じます。
「虐待」と言う感情を一度も持たなかった人は、恐らくいない筈です。
男性は、身につまされるよと言うよりも、自分の業で押し切ったらと考えた時の怖さ。
女性は、どこかで痛感させられそうになった場面を想定するかもしれません。
環菜に判決が下った後からラストシーンに及ぶまでは納得の行く場面ですが、後味が良いのか悪いのか、しこりが残ります。
ミステリーの様な体裁ですが、アッと驚く様どんでん返しがある訳でなく、環菜の家庭環境に纏わる幾つもの謎を徐々に紐解いて行く感じなので「サスペンスヒューマンドラマ」と捉えて観賞した方が、良いでしょう。
『ファーストラヴ』総括
産まれた頃の環境次第で、普通だと思っていた世界が実は異常だっと気付かされる。
それが心の傷になっていたと解った頃には取り返しのつかない事態を招いていた。
「ファーストラヴ」は、その甘美な響きの裏にある、凄惨な過去を直視せざるを得ない、重い作品です。
性的問題に拘わらず、虐待の過去を持っているだけで、人生のどこかで悪影響は噴出します。
これは、被害者側に関わらず、加害者にも言える事です。
過去の傷と向き合って人生がおかしくなる人もいる一方で、それを糧にして這い上がる人もいます。
甘い想いに昇華させられるのは、自分自身でしょう。
作品に登場する「臨床心理士」は、様々な心の問題を解決しながら、知識や高める為の調査や研究を行う職業として実在し、民間資格で取得出来ます。
北川景子出演作
中村倫也出演作