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獄中の殺人犯。「先生」と呼ばれる黒幕。真相を追う記者。三者三様の「凶悪」とは!?

一体、何が凶悪なのか?誰が凶悪なのか…?

「凶悪」は、茨城県で実際に発生したという「上甲書殺人事件」を基にした犯罪映画です。
原作は「凶悪 -ある死刑囚の告発-」というノンフィクション小説で、2009年に新潮文庫より文庫化され10万部を超えるベストセラーとなっています。

そんなベストセラーをもとに製作された本作は、様々なメディアや映画祭に出品され、センセーショナルな社会派サスペンスエンターテイメント作品となりました。

そしてその衝撃的な内容が話題を呼び、国内の映画賞においても多数取り上げられた結果、ロングラン上映の大ヒット。
最終的な興行収入は2億円にものぼったという、国内でのノンフィクションや犯罪映画における異例の記録を打ち立てるに至る「凶悪」とは、一体どんなものだったのでしょうか。

映画『凶悪』あらすじ

死刑判決を受けた暴力団組長の須藤(ピエール瀧)から、藤井(山田孝之)が務める出版社宛に手紙が届きます。

上司から面会して話を聞いてくるよう命じられ、渋々取材を始めることになった藤井。

しかし、裁判でも明るみに出なかった余罪やその首謀者である「先生」の存在などについて知っていくうち、藤井は次第に事件に飲み込まれていきます。

はじめ、須藤の記憶は曖昧(“先生”について本名すら覚えていなかった)で、信憑性は薄く感じられます。
しかし、「誰にも言っていない事件があります」という須藤の前置きをきっかけに、事態は変わることになりました。

須藤の口から語られたのは、3つの凶悪な事件です。

  • 1つ目は、先生がある老人を絞殺し、その死体処理を須藤が手伝ったという事件。
  • 先生は、貸した金を返してもらえないことに腹を立て、全体重をかけて首を絞めました。
    しかし、実際に死んでしまった被害者をみてうろたえ、須藤に助けを求めることになりました。
    そこで須藤は、土建業者の知り合いの焼却炉で老人の死体を焼いて、証拠を隠滅したのです。

  • 2つ目は、空き地の所有者を生き埋めにして、その土地を売ったという事件。
  • 土地の代金はなんと1億円。そのお金は先生と須藤で山分けにされました。
    このことをきっかけに、先生は須藤を弟のように可愛がるようになり、須藤の子供にランドセルを買い与えるなど、二人は親交をさらに深めていきます。

  • 3つ目は、5,000万円の借金を抱える電器店の主人を殺害した事件。
  • 先生と須藤は主人を殺して保険金を騙し取ろうと画策し、借金に疲弊した家族をうまく丸め込みます。
    そうして主人に死ぬまで酒を飲ませ、行き倒れたように見せかけて林の中に放置したというのです。

これら三つの事件の独白をきっかけとして須藤の深い闇に飲み込まれていく藤井は、執念の取材により真相に辿り着き、告発記事を書き上げます。

しかし、狂熱に浮かされたように先生と須藤を執拗に追い続ける藤井の姿は、これもまた”凶悪”なものでした。

そんな藤井に対し、先生が

「私を一番殺したがっているのは…」

と言いながら藤井を指差したところで、物語の幕は閉じられます。

映画『凶悪』の評価

映画「凶悪」について、見どころとオススメできる人、オススメできない人をそれぞれ解説します。

見どころ1:各俳優陣の凶悪な演技は、国内最高水準!

まず、なんといっても取り憑かれたような役者陣の怪演です。
緊張感が音を立ててピリピリと聞こえてきそうなほどです。

表情の細部に至る繊細な演技や、言葉への感情の乗せ具合とキャラクター性がマッチしており、この事件の異常性や不条理さなどをビシビシと訴えてきます。

特に、主要登場人物であるリリー・フランキー、ピエール瀧、山田孝之の本作における演技は、彼らのキャリア最高と言ってもいいほどです。

たとえば、リリー・フランキーが、殺人の経験もないのに、怒りに任せて初めの殺人を犯してしまったというシーンで見せる狼狽ぶりは見事なものです。
しかし、そこから次第に凶悪な先生へと変貌していく姿も素晴らしく、時折見せた裏切りの冷たい表情には寒気すら覚えました。
リリー・フランキーは、劇中で逮捕されて退場する最後の時まで、完璧に先生そのものでした。

はたまたピエール瀧も、暴力団組長としての凄みもあれば、弟分たちへの愛情も合わせ持つという、多面性を持った須藤を完璧に演じ切ります。

裏切りへの凄まじい憤怒や、獄中での証言時の信頼しがたい存在感。
終盤の、”キリスト教に目覚めたように見せかけつつも、実は内面で憎しみを歪ませ切っている”様子など、その演技の振り切り方には思わず目を背けたくなりました。

そして、記者として事件を追う須藤を演じた山田孝之も、徐々に狂気に取りつかれていくという難しい役どころを怪演しています。
暗い眼の光や、時折見せる鋭い表情などには、いわば演技を超えた表現を感じます。
彼は、本作を通じて日本を代表する役者としての地位を確立したと言っても過言ではないでしょう。

見どころ2:徹底したリアル主義から生み出される強烈なトラウマ!

ストーリーの凄惨さと生々しさです。
実際の事件を基にしているだけあって、情景や心情の描写のリアリティは抜群。
細部まで違和感なく作り込まれています。

しかし、さすがに人を殺すというリアルまでは知らないはずなのに、何故ここまで真に迫った表現ができるのでしょうか。

それは、制作陣の強烈な取材力や、探究心の賜物であることは一目瞭然です。

この事件を広く公にするにあたり、本作の必要性について信念と誠意を持って制作したチームに最大級の賛辞を。
トラウマ映画をありがとう!

オススメできる人

本作はサスペンス”エンターテイメント”作品ではありますが、いわゆるエンタメ作品とは一線を画しています。
まず、全編を通して恐ろしいほどの緊張感、吐き気を催すほどのリアリティが目白押しです。
ノンフィクションが好きならきっと楽しめるはずですが、心して鑑賞してください。

また、事件に関わる人物たちの歪み切った心理状態や、それを強烈に表現する俳優たちの熱量を楽しむことができるという方には是非オススメしたいと思います。

オススメできない人

“死にたくない!ともがく人間を自分の手で殺す”という凄惨な事件を通じて、本作を観る者の心におぞましく凄惨な感情が植え付けられます。
私たちが普通の人生を送るにあたっては経験しうる可能性がとても低い世界のはずですから、そんなものに触れることなく穏やかに過ごしたいという人には絶対にオススメできません。

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