2011年公開、サスペンス・コメディ映画。脚本、監督は「ザ・マジックアワー」の三谷幸喜が手掛けます。
日本アカデミー賞において、優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞を受賞。
また、主演の深津絵里も優秀主演女優賞受賞、同じく主演の西田敏行は、スポーツ映画対象において助演男優賞を受賞しました。
監督自らメディアによる積極的なPR活動をしたこともあり、大衆の関心を集めましたが、その期待を裏切らず、内容の満足度に高評価を残したコメディ作品となっています。
三流のダメ弁護士と落ち武者の幽霊の掛け合いが斬新な『ステキな金縛り』、もともとは男性弁護士を考えていたが、深津絵里が出演を決めたことで、女性が主役の初作品になったといいます。
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『ステキな金縛り』あらすじ
落ちこぼれの弁護士、宝生エミ(深津絵里)は弁護士事務所のボス、速水悠(阿部寛)に最後のチャンスだと言われ、妻殺しの犯人で起訴された矢部五郎(KAN)の弁護を任されます。後の無い宝生は、旅館で金縛りにあっていて犯行はできないと主張する五郎の証言を裏付ける為、奥多摩のしかばね荘に向かいます。
五郎が宿泊したという部屋に通されると、事件の日、五郎に一晩中またがっていたという落ち武者の幽霊、更科六兵衛(西田敏行)と会うことができました。宝生は六兵衛に証言台に立ってもらうよう説得。
五郎が無実の罪で裁かれてしまうことを自分の無念と重ねた六兵衛は承諾します。
異例の裁判に、検事の小佐野徹(中井貴一)は承諾しません。
しかも、六兵衛なる幽霊は全ての人に見えるわけではなく、証言の信憑性に欠けると言われてしまうのです。
宝生は、ボスの協力を得て六兵衛の存在を証明すべくあらゆる方法を試します。
その間にすっかり打ち解けた宝生と六兵衛は、被告の無実を晴らすべく手を取り合っていくのです。
『ステキな金縛り』ネタバレラスト
ついに六兵衛を見る為の3の条件がわかります。- 最近、何事にもついていない。
- 最近、死を身近に感じる出来事があった。
- シナモンが好き、または摂取している。
ということです。
そして驚くことに、小佐野も六兵衛の事が見えていることに気が付くのです。
そうとは認めない小佐野に、六兵衛は小佐野の死んだ愛犬、ナナ(声:山寺宏一)を連れてきます。
レストランで我も忘れてナナとじゃれ合った小佐野は六兵衛の存在も認めざるを終えません。
証言することは認められる運びとなったものの、今度は六兵衛が仲間を裏切り反逆の罪で打ち首になったという歴史上のいわれまでも持ち出し、六兵衛はまたもや無念の念にかられてしまうのです。
さらに、勝敗を待たずして向こうの世界の管理局公安である段田譲治(小日向文世)が六兵衛を強制送還しにやってきます。
宝生は、六兵衛の子孫である木戸(浅野忠信)と約束の慰霊碑を建てる場所へと六兵衛を案内し、別れを惜しみました。
しかし、病に倒れ呆気なく死んでしまったボスの死をきっかけに、宝生は被害者、五郎の妻の鈴子(竹内結子)は死んでいないことに気が付き、事件の真相が見えてくるのでした。
実は、鈴子は実姉の風子(竹内結子)を殺害し、風子に成り済ましていたのです。
法廷に呼びつけた偽物の風子にシナモンパウダーを吹きかけると、死んだ楓子の姿が現れ、犯人は鈴子であることを証言します。
宝生が思いに耽っていると、幼いころに亡くした父を連れた六兵衛が現れました。
しかし、弁護士として成功を収めた宝生に、もう幽霊を見る条件は備わっていませんでした。
六兵衛が存在を証言したように宝生と父はハーモニカで言葉を交わしたのです。
『ステキな金縛り』見どころ4点
中井貴一の一人芝居
実は幽霊が見えている検事の小佐野。ぴしっと決め込んだスーツ姿とジョークのひとつも発さない雰囲気の冷静なキャラクターですが、死んでしまった愛犬ナナとの再会シーンは見ものです。
人目を憚らず、まわりからは見えていない犬と転げ回りじゃれあう中井貴一に思わず吹き出してしまうことでしょう。
また、法廷で、小佐野の反対尋問に怒った六兵衛が刀を抜くシーンも笑わずにはいられません。
中井貴一がひとりで逃げ回り腹を切られる演技はとても滑稽です。
”ありえない”の連続
何もかもが型破りの連続。
細かい事を気にしていられなくなるくらい”ありえない”の連続です。
落武者がでてきたことも、その幽霊を証言台に立たせることすらも”ありえない”話で、突っ込みどころが多すぎなのです。
深津絵里の上司である阿部寛が、病で呆気なく御臨終となりますが、そんな悲しいはずのシーンでさえ笑ってはいけないと思いながらもやっぱり笑ってしまうひとコマで、なんだか罰当たりな事ですが、そんなところにも三谷幸喜作品らしさが感じられます。
主役級クラスの俳優陣
流石、名の知れた監督とあり、深津絵里や西田敏行をはじめ、主役級の俳優陣がぞろぞろと出演します。通りがかりの女役に篠原涼子、殺された鈴子とその姉夫婦に今作1人2役で出演の竹内結子と山本耕史。
タクシードライバーに生瀬勝久まで、豪華な俳優さんが目白押し。
ほんの数分の出演で思いっきり振り切った演技を見せてくれます。
唐沢寿明のドクター役も、深田恭子のウェイトレス姿も貴重。
見逃さないでください。
西田敏行のアドリブ
西田敏行の台詞はいつもアドリブが多いと言いますが、そこもみどころのひとつ。探しに行った小佐野の愛犬ラブがハチ公の横にいた。
という設定も西田敏行の思い付きのようで、監督も羨むくらいに面白いと絶賛しています。
また、法廷で六兵衛のものまねをする宝生については、深津絵里に任せたのだとか。
俳優さんたちのイメージがどんどん崩れ、見方を変えるとまた何度でも楽しめる要素が盛りだくさんです。
『ステキな金縛り』感想
とにかく深津絵里の表情や間の取り方、仕草がとても可愛らしいです。宝生エミという人物像がしっかりと伝わり、愛嬌たっぷりの笑顔と弁護士らしくない振る舞い、そして不器用ながらも目的に向かって一直線に進もうとする姿に、とても好感の持てるキャラクターだと感じます。
そして、やはり三谷幸喜だからこその豪華なキャスト。
こんなところに出演しているの?という発見が楽しく、ストーリー以外のところにも面白さを感じられます。
もちろん言うまでもなく、個々の俳優の確かな演技力に、まるで金太郎あめのようにどこをとってもハズレが無く、最後まで見入ってしまうはじけた作品です。
妻を殺した夫の罪を巡る裁判は、後半急展開を見せ、事態は解決へと導かれますが、落ち武者の出現により話が膨らみ、そういえば何の裁判だった?と、事件の事などすっかり忘れるくらい面白さが満載です。
『ステキな金縛り』評価
落ち武者の幽霊が出るからと言ってホラー要素はなく、殺人事件だからといって胸を痛めるサスペンスでもありません。
そして裁判というほど難しい描写もなく、だれでも思わず吹き出してしまう作品です。
それでいて登場人物の心情を感じる場面も多く、特にラストシーンはホッと心に温かい空気を送り込んでくれるような、優しい瞬間も感じさせてくれる作品でもあります。
もちろん子供には面白く、大人には日頃の大人社会の煩わしさやストレスを吹き飛ばしてくれる笑いのエネルギーを持つ映画。
始まりからエンドロールまで楽しませてくれます。
コメディなんて...と思っているあなたも三谷幸喜ワールド全開の『ステキな金縛り』に魅了されてしまうことでしょう。