泣けると話題の『旅猫リポート』は2018年公開、有川浩のベストセラー小説を映画化した作品です。
誰にでもわかりやすく読みやすい文体、だからこそ大きな感動を与えると評判の有村浩が、一生に一本しか書けないと公言する程思いが詰まった作品です。
三木康一郎監督が、感動的ストーリーに、透明感ある印象深い美しい情景に色付けします。
また、猫の視線、動き、表情を細かく表現することにも強いこだわりを見せ、動物プロダクションの協力のもと動物の撮影を行ったと言います。

主役は「イン・ザ・ヒーロー」「神様の言うとおり」などで日本アカデミー賞新人俳優賞受賞、また、2017年「無限の住人」出演の福士蒼汰
有村浩作品出演は「図書館戦争」に次ぐ2作目です。
猫を飼った経験があるというだけあり、画面を通し彼の猫好きが伝わり、爽やかな笑顔と愛らしい猫とのコンビが見る人を和ませます

そしてナナの吹き替え役には高畑充希
2016年、有村浩作品「植物図鑑」の主役を務めた彼女は、日本アカデミー賞新人俳優賞受賞をはじめ、その後も多数の賞を受賞。
さらに、「シンデレラ」にて主演エラの吹き替え、2017年公開のアニメ映画「ひるね姫~知らないワタシの物語~」にて主人公の森川ココネの声を担当するなど、着実に実績を積み上げている注目すべき実力派女優です。
実家で猫を飼っているという彼女も、流石に猫の吹き替えをどう演じるのかは悩みどころだったと言いますが、そういいつつも、今作において人間味ある雄猫の役を見事に演じきりました。

『旅猫リポート』あらすじ

まだ名もなき誇り高き野良猫時代、交通事故に遭った猫(声:高畑充希)は、時々餌をくれていた心優しい青年、宮脇悟(福士蒼汰)に助けられました。
ナナという名前で呼ばれ、まんざらでもないナナは悟の猫になりました。
5年間の月日と共に信頼を積み上げてきた1人と1匹ですが、ナナを手放さなければならない状況になってしまいます。

そこで、悟とナナは友人を頼りに新しい飼い主探しの旅に出かけますが、それぞれの事情からなかなか貰い手は見つかりません。
かつての友人たちを訪ねる度に、誰にでも優しい悟の生い立ちと、まるで猫が結び付けてきたような人と人との関りが思い返され、悟自身の人生を振り返るきっかけになっていくのです。

『旅猫リポート』あらすじネタバレあり

悟は小学生のころ少し気が弱い親友の澤田幸介(山本涼介)と捨て猫を拾います。
幸介の家では飼うことが許されず、悟がハチと名付けた猫を引き取ることになりました。
頼りないが優しい父親と心配性の母、そしてハチが加わり幸せな生活を過ごしますが、悟が修学旅行の最中、交通事故により両親が亡くなってしまいます。

母の妹である叔母の香島法子(竹内結子)が悟を引き取ってくれましたが、叔母の仕事上、猫を飼うことが難しく、ハチは遠方の親類へ引き取られていったのです。
ハチはそこで大切に育てられていましたが、悟が大学生の時交通事故で死んだと連絡が入り、悲しみに胸を痛めた過去があったのです。

ナナは黒ぶちの模様を持つ猫でハチによく似ています。
悟はハチの面影を追いながら、ナナとの生活を楽しんでいましたが、自身が余命宣告されたことを期に、またもや飼い猫を手放さなければならなくなってしまったのです。

ナナの飼い主を探す旅で、幸介の近状に耳を傾け、その後夫婦でペンションを経営している大学時代の友人、杉修介(大野拓朗)と千佳子(広瀬アリス)を訪ねます。
大学時代、千佳子に思いを寄せていた悟はそこでも当時の思いを懐かしく呼び起こします。
しかし、それぞれの事情と、動物たちの相性、タイミングなどが合わず、最終的には猫が苦手な法子にナナを託すことになったのです。

入院生活が始まる悟の事情がナナに伝わるはずもなく、ナナは必死で悟の側に居続けようとしますが、それは叶いません。
元々自尊心の強いナナは法子の目を盗み野良猫時代の自由な生活へと戻っていきます。
ナナは生涯、悟の猫でいることを望み、悟の最期を見届けるのです。

『旅猫リポート』見どころ3点

旅猫リポートの見どころを3点解説します。

ほんわり、ほのぼのとした空気感

恵まれた容姿と屈託のない優しい眼差しでナナを見つめる福士蒼汰と愛らしい雄猫とのコラボ。
それだけでも大きな見どころですが、日の光にキラキラと輝く透明感のある空気に、福士蒼汰ファンはもちろんの事、猫好きにもたまらない作品です。
特に菜の花畑でのシーン、両親の墓でナナと虹を見上げるシーンは心に残るほどの美しい情景が目に焼き付きます。
現実の問題点とやるせない思い、そして病を抱える重く悲しいストーリーであるはずなのに、なぜかほんわりとした癒しを感じ、切なさと同時に安心感が湧く不思議な作品です。

悟を愛し、自由を愛する猫

残されたナナの気持ちが切なく心に沁みますが、悲しみを嘆くだけでは終わりません。
動物的な本能なのか、生き方なのか、生き伸びていく過酷さを知っているからこそ、悟を失うナナに強さを感じるでしょう。
真っすぐな目で悟の最期を見据えるナナからは、人間とは違った死の受け止め方を感じ、逆らえない運命を受け入れる覚悟を見ることができます
人間よりも何倍も体の小さい猫が大好きな飼い主の最期を静かに見届ける場面は、忘れられないひとコマになるでしょう。

悟の両親や法子の優しさと覚悟

人間と猫との絆にスポットライトを当てているだけに周りの人たちの心が置いてきぼりになりがちです。
人の非情さや、わずらわしさをにおわせながら、捨て子の悟を我が子として育てた両親や、悟を引き取ってくれた法子の精一杯の気持ちには人間の強さと優しさを感じます。
悟の虫も殺せないほどの優しさは、周りの人の心があってのものなのかもしれません。

『旅猫リポート』感想

少しツンとして媚びを売らないナナに釘付けです。
悟とナナの息が合っていて、実は福士蒼汰の飼い猫なのでは?と思っていたくらいです。
それにしても、人間の言葉や思いはどこまで動物に通じているのでしょう。
逆に、一緒にいるペットの思いを私たち人間はどこまでわかってあげられているのでしょうか。

人と人が繋がるとき、時に言葉は必要であり分かち合う方法として必要不可欠です。
それなのに、気持ちだけで通じ合える確かな愛を感じました。
動物は人間とは違い、感情で涙は流しません

人間の表現する喜びや悲しみと違う方法で表現する動物たちは、か弱くただ可愛い存在ではなく、実はとても強く、それでいて私たちの心を癒す力も兼ね添えているのです。

そして、ストーリーの中で何度か出てくる現実的な問題点に目を背けるわけにもいきません。
捨て猫や育児の放棄、そしてナナの交通事故から始まり、悟の両親、ハチの死因までもが交通事故であることに触れられずには終われないのです。
大切な人を失う、想像もしたくないほどの喪失感が余韻として残ってしまうことは無視できないところ
この映画を通し、命の尊さに目を向け、個々が見直すきっかけになればと切に願わざるを得ません

『旅猫リポート』総括

猫に限らずペットを家族に持つ人は、映画を見ながら、あなたもこんな風に思っているの?
と思わずペットの表情を窺ってしまうのではないでしょうか。
何かを訴えているように首をかしげるペットをきつく抱きしめてしまうかもしれません。

『旅猫リポート』は、頭をひねって考えるような複雑な物語ではなくファンタジー要素たっぷりの感動作です。
積み重ねてきた人生に違いがあるように、心に響くポイントも人それぞれです。

それほど動物が好きでない人は手に取り難い作品かもしれませんが、単に動物を利用した泣ける映画というわけではありません。
人間同士が愛の言葉を持って囁かれる感動とはまた違う絆を感じます。
そして、孤独、別れ、そして命の尊さを作品から感じてほしいのです。