160人を射殺?伝説の狙撃手が4度のイラク戦争の果てに手に入れたものとは!?『アメリカン・スナイパー』

アメリカ軍には、伝説のスナイパーがいました。

それは、イラク武装勢力に「ラマーディーの悪魔」の異名を轟かせた、本名を”クリス・カイル”という男です。

彼は4度にわたる戦いで160人をも射殺しましたが、その一方では、ひとりの優しい父親でもありました

本作「アメリカン・スナイパー」は、彼の自伝である”ネイビー・シールズ最強の狙撃手”を原作とし、

  • クリント・イーストウッド監督
  • ブラッドリー・クーパー主演

という、巨匠・名優による盤石の布陣で制作されました。

本作は、その重厚なリアリティと世界観は圧倒的で、イーストウッド監督作品としては初めてのIMAX&ドルビーアトモス対応作品となったことも相まって、当然ともいえる大ヒットを博しました。

『アメリカン・スナイパー』あらすじ

銃社会テキサスの片田舎で、厳しい父親に狩猟技術を教わりながら育ったクリス・カイル。

彼の信条は、

「人間には善良で無力な羊と、それらを食い物にする狼がいる。
お前は狼には決してならず、羊を守る牧羊犬となれ!」

という父の教えでした。

そんなクリスは、ある日、タンザニアとケニアのアメリカ大使館が爆破される事件を知ります。
そのことがクリスに非常に大きな衝撃を与え、また父の教えを思い出すきっかけにもなり、クリスは当時30歳という遅咲きながらも海軍に志願しました。

厳しい訓練の日々を耐え抜き、見事に海軍の特殊部隊「ネイビー・シールズ」に配属されたクリスは、狙撃手としての才能を開花させていきます
やがてクリスはタヤという女性と出会い、交際を始めますが、9.11同時多発テロ事件が勃発。
クリスの人生に転機が訪れます。

順調に愛を育み、クリスとタヤはついに結婚。
しかし、幸せの絶頂とも言える式場にて、戦地への派遣命令が下ります。

狙撃の腕を買われていたクリスは、初めての海外派兵任務で、爆弾を所持していた子供と女性をやむなく狙撃します

クリスはその後も合計8名の敵兵を狙撃。
続いてテロリスト集団を率いるザルカーウィー抹殺の作戦に参加した際、元オリンピック狙撃選手の凄腕スナイパーであるムスタファと初めて対峙します。
(クリスとムスタファはこの後何度も死闘を繰り広げることになります)

戦いは続きますが、一時帰国を果たしたクリスは、タヤとの間に長男コルトンを授かります。

『アメリカン・スナイパー』結末

続く2度目の派兵では、クリスは18万ドルの賞金首となってしまいますが、無事戦果を挙げ続け、いつしか仲間からは「伝説」と讃えられ始めます。

しかし、その一方で敵からは「悪魔」と恐れられるようになったクリスの心は、崩壊の一途を辿り始めます。

3度目の派兵は激戦続きで、親友のビグルスが1キロ先のムスタファに顔面を撃たれて視力を失ったほか、戦争に疑問を感じ始めていたマーク・リーの無念の戦死などが相次ぎ、クリスはPTSDに見舞われます。

こうして心身を蝕まれたクリスと、長女を出産したばかりのタヤとの溝は広がります。
クリスはタヤから除隊を嘆願されますが、クリスは仲間のため、国のため「あと1度だけ」と告げ、4度目の戦地に向かいます

そして、サドルシティに赴いたクリスは、1920メートル先にムスタファの姿を捉えます。
親友ビグルスへの想いも込めて放った銃弾はムスタファを貫き、宿命の長い戦いはついにサドルシティで幕を閉じます

タヤとの約束通り除隊したクリスでしたが、そのPTSDは悪化を続け、クリスは社会に馴染めずにいました

精神科のカウンセリングを受けるようになったクリスは、仲間であるイラク帰還兵たちとの交流を通じて、少しずつ元の人間らしい生活と心を取り戻し始めます。

そんなある日、退役軍人の社会復帰プログラムの一貫として出掛けた射撃訓練先で、クリスはなんと同行していた若者に射殺されてしまいます。

38歳という若さにして非業の死を遂げたクリスの人生は、英雄として仲間や国民たちから哀悼の意を表され、盛大な葬儀によって幕が降ろされることとなりました。

『アメリカン・スナイパー』見どころ2点

イーストウッド作品ならではの圧倒的リアリティ!

なによりもまず、戦争を体験しているイーストウッド監督による中東戦争のリアルで精密な描写が強烈です。
息を呑むどころか、緊迫しすぎて時間が止まってしまったのではないかと思えるほどです。

しかも、主演である名優ブラッドリー・クーパーの役作りが、その精密さにさらなる深みを与えています。

彼は実在の凄腕ソルジャーの役に没頭するため、過酷なトレーニングやエネルギー摂取に取り組み、約20キロも増量して撮影に臨みました
その立ち振る舞いや、スナイパーとしての眼差し、そしてシリアスな表情は、実際の軍人と比較しても遜色のない作り込みです。

そうして徹底的に作り込まれた本作のブラッドリー・クーパーの見目形は、まさにクリス・カイル本人と見間違うほどであり、遺族さえ本人を思い出して涙したという逸話があります。

実はクリスが同じPTSDに苦しむ若者に射殺されるという悲劇は、本作「アメリカン・スナイパー」の製作中に起きたものでした。
そのため、本来はクリスの社会復帰までが制作される予定でしたが、期せずしてその死と葬儀までが描き切られることになります。

リアルタイムに起きた運命のイタズラと、本物の悲しみが、イーストウッド監督の真骨頂である重厚なリアリティをまとい、本作はスクリーン越しにクリスの凄絶な人生の重みを私たちに突き付けてくるのです

なお、イラク戦争の初陣でクリスが射殺した母子をはじめ、過激派の虐殺者や、宿敵ムスタファなど、登場する誰もが名演であることももちろん見過ごせません。
彼らは実在よりも濃いのではないかと思えるほどの影を私たちの心に残し、今作における”戦争への問いかけ”をより大きなものにしています。

戦争がもたらすものとは何か?クリスが私たちの心に残す強烈な爪あと!

仲間や家族のため、そして国のために、クリスは自ら進んで戦場に向かいました。

そんな男が死地を切り抜けるため、(敵とはいえ)160人に及ぶ人間を、自ら引き金を引くことで射殺する

そうして戦争に蝕まれていくクリスの心は、

  • 正義ではあるが、「人殺し」としての顔
  • 父親として、夫として、そして単なる「1人の人間」としての顔

という、相反する二つの顔の狭間で揺れながら、崩壊していきます。

そして、クリスの懸命な生への執着は、本来の目的である”敵への憎悪”をも薄れさせていきます。
その心は限りなく無に近づいていき、ただ生きていくために殺すという、いわば純粋で無垢な殺意へと変貌を遂げるのです。

そうして、やがて日常生活を送れないほどに崩壊していくクリスの精神が、本作には克明に描かれています。

そんなクリスの姿は、戦争を経験したことのない世代の心にも、強烈な爪あとを残してくれることは間違いありません。

オススメできる人

戦争映画でありながら、キャラクター性の高い登場人物が多いため、本作はアクション映画としても非常に高評価です。
善と悪の対立という形が根底にあるため、正義の狙撃手が悪を狙い撃つという、王道的なストーリーも分かりやすいと言えます。

しかし、この正義はあくまでも主観です。

主観のみがいつでも正しいわけではありません。
“実は敵と同じことを自分たちも行なっているのだ”と、考えさせられる部分も本作には多くみられます。

単純な勧善懲悪ではなく、そんな深みのある映画を探している方にはぜひオススメです。

オススメできない人

なんといっても本作はリアルな戦争映画です。
人が人を殺します
国のためだとか、単純に対立しているからとか、いろいろな理由で鑑賞中には命がいくつも消えていってしまいます。
しかも、そのどれもがライトには描かれていないため、戦争の残酷さや悲しみに触れたくないという方には絶対にオススメできません

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