1950~60年代に実在したロンドンの伝説的な双子のギャング、レジナルド・”レジー”・クレイとロナルド・”ロン”・クレイを描いた『レジェンド 狂気の美学』。
この映画ではロンドンのイーストサイドを舞台に、知的でカリスマ的な兄レジーと暴力的でトラブルメーカーの弟ロンが裏社会で活躍して帝国を築いていく様子と、双子という運命を背負い、切ることのできない兄弟の絆を誇り、時に苦しめられるレジーの姿を見ることができます。

主人公のレジーとロンの一人二役を、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディが演じます
彼は双子それぞれの特徴はもちろん、クレイ兄弟の狂気、強さ、そして脆さを見事に演じきっています。
映画を見ていると、実はトム・ハーディにも双子の兄弟がいるのではと錯覚してしまうほどです。

ギャングが主人公の今作ですが、キャラクターたちがさかんに紅茶やビールを飲み、サッカーに夢中になる様子などイギリスらしさがユーモラスに描かれています。
単なるギャング映画ではなく、60年代のイギリスの雰囲気、そこでのし上がっていったクレイ兄弟がどんな男たちだったのか、彼らの生き方に注目していきたいと思います。

『レジェンド 狂気の美学』あらすじ

1960年代のロンドン、イーストサイド。ギャングのレジー・クレイ(トム・ハーディ)は運命の女性、フランシス(エミリー・ブラウニング)と恋に落ちます。
彼女とデートの約束を交わすと、彼を尾行する警察(クリストファー・エクルストン)をまいて部下のアルビー(ポール・アンダーソン)と双子の弟、ロン(トム・ハーディ)が収監されている精神病院に向かいます。

頭が切れ、カリスマ的な兄レジーとは対照的に、暴力的で意味不明な言動を繰り返す弟レジー
彼は傷害罪で3年の懲役中に心を病み、精神病院に移されていました。
ロンを釈放させる為、医師を脅して偽証をさせたレジーは、必ず精神安定剤を飲ませてくれと医師から薬を渡されます。

フランシスとデートの日、レジーは自分の経営するクラブへ彼女を連れていきます。
そこへトラブルが起きたと部下が現れ、渋々店の奥へ向かうレジー。
奥の席で緊張した様子で待っていたのは、組織の薬を転売して売り上げを横領したジャック(サム・スプルエル)でした。
レジーは「明日中に全額返せ。」と言い、タバコを勧めて彼を許したように見せてジャックの顔面を一発殴ります。

一瞬の狂気を見せたレジーですが、フランシスの元へ戻ると、優しく彼女に微笑みかけます。
危険な男だと分かっていても恋に落ちてしまったフランシスは、彼と唇を重ねます。
恋人となった二人はロンの元を訪れます。
緊張した様子のフランシスに対し、友好的に振る舞うロンでしたが、恋人のテディ(タロン・エガートン)が出てくると自分の性生活の話しを始めたり、レジーと二人でロンドンを支配すると言い始めます。

ロンドンの西側では、東西統一を狙うチャーリー(ポール・ベタニー)の一味がレジーを襲い、ロンドンの東と西の抗争が始まります。チャーリーは和平交渉の為、クレイ兄弟にビッグ&ホイッスルへ来るように言いますが、そこで待っていたのはチャーリーの部下たちでした。

キレながら店を出ていくロンに対し、一人冷静にビールの泡が上がってくるのを待つレジー。

チャーリーの部下たちがレジーをリンチしようとじりじり詰め寄ってきますが、レジーはメリケンサックを両手はめ、いつの間にかバーに戻ってきたロンも両手にハンマーを持ち、たった二人で大人数を相手に暴れまわります。
圧倒的な強さでチャーリーの手下を潰し、警察によってチャーリーも逮捕されます。
西側を制覇したクレイ兄弟はロンドンを手中に収めたのでした

レジーはペイン(デヴィッド・シューリス)を仲間に迎え、ビジネスチャンスを見つけて勢力を拡大していきます。
レジーはペインを信頼していますが、ギャングらしく暴れまわりたいロンはペインのことを邪魔者扱いします。

やがてクレイ兄弟の存在はアメリカのランスキーというマフィアにも知られるようになり、欧州進出を狙っていたランスキーとクレイ兄弟は手を組みます。表向きはカジノクラブのオーナー裏ではギャングとして、レジーは帝国を築き始めます
しかしその年のクリスマス前にレジーに令状が出され、6ヵ月服役することになってしまいます。

服役中のレジーに面会に行ったフランシスは、彼に対する愛と堅気の世界で生きてほしいという彼女の気持ちを告げます。
レジーもフランシスへの愛を口にし、もう二度と捕まらないと言います。
刑期を終えて出所した彼は花束と遅くなったクリスマスプレゼントを持ってフランシスに会いに行きます。
排水管をよじ登り、フランシスに花束とプレゼントの婚約指輪を渡すレジー。
彼からプロポーズを受けたフランシスは幸せそうに微笑み、「結婚するわ。」と彼にキスするのでした。

金曜の夜、ガラガラのクラブに現れたレジーとフランシスは変わり果てたクラブの様子に驚きます。
レジーが服役していた間に、落ち着いていたロンが暴走し、レジーの築き上げてきたものを台無しにしていたのです。
レジーはロンに怒りをぶつけますが、ロンは皆の目の前でフランシスを侮辱します。

キレたレジーはロンを殴り飛ばし、激しい兄弟ゲンカが繰り広げられます。
レジーに叩きのめされたロンは正気を取り戻し、レジーとフランシスへの謝罪を口にします。
後日フランシスに謝罪をするレジーは一度は彼女に別れを切り出されますが、一生懸命に弟の事、フランシスへの愛を語るレジーの姿を目にし、彼のことを許します。

彼女と堅気の世界で生きていくために、ウエストサイドにある”ハイドアウェイ”というクラブのオーナーを脅迫し、レジーは店の半分を手に入れます。
しかしギャングの世界で共に生きていきたいロンが妨害行動に出ます。
彼を恐れたオーナーはレジーとの契約を解消し、警察へ通報します。
強要罪に問われたレジーは刑務所に逆戻りしてしまうのです。

面会に訪れたフランシスは、約束を破られたことに絶望し、無罪なら結婚、有罪なら別れるとレジーに告げその場を去ります。
フランシスの決断に戸惑うレジーでしたが、運は彼の味方をしました。
貴族院の大御所ブースビー卿がロンと写っている写真がタブロイド紙に掲載されたのです。
選挙を控え、ブースビーをネタに脅迫された政府はクレイ兄弟を無罪としたのです。
こうしてレジーは”ハイドアウェイ”を手に入れ、その夜祝賀会が開かれます。そしてレジーとフランシスは結婚式を挙げます

『レジェンド 狂気の美学』ネタバレラスト

フランシスとの約束に反し、レジーは裏社会へと戻ってしまいます
夫は朝まで家に帰らず、義母・義弟との関係も上手くいかないフランシスは精神安定剤に頼るようになってしまいます。

深い愛情で結ばれたはずの二人の間には深い溝ができてしまうのです。
崩壊していく家庭とは反対に、レジーのビジネスは順調でした。

組織の幹部達が成功を祝してバーに集った日、ロンはペインの発言にキレて彼の頭へグラスを叩き付けます。
彼を始末するべきだと主張するロンに、イカれていると罵倒するレジー。
そんな彼に対し、「お前は人のことを言えるのか?」とロンは呟きます。
レジーが成功の道を進むほど、ロンは足を引っ張ろうとトラブルを起こします。
トラブルメーカーの彼を消せないかとランスキーの部下にも言われますが、それはできないとレジーは即答します。

そんな時、以前ウェストサイドを取り仕切っていたチャーリーの手下、ジョージ・コーネルが現れ、縄張りを荒らし始めます。
ロンは銃を手にジョージのいるバーへ乗り込み、いきなり頭を撃ち抜きます
レジーはジョージ殺害の後処理に追われます。
一度はクレイ兄弟の捜査を打ち切られたロンドン市警でしたが、殺人事件を機に再び捜査が始まります。

しかしレジーが手を回していた為、目撃者は口をつぐみ、ロンは逮捕されませんでした。
レジーの実家で逮捕されなかったことを喜ぶクレイ兄弟の姿を、フランシスは悲しげに見つめます。
そしてその日、レジーは大切な存在だったはずのフランシスの心も体も傷つけてしまうのです。

翌朝、フランシスは家を出ていきます。
そこに居合わせたロンは、レジーを愛する努力をしたこと、フランシスを認めていたことを伝え、彼女を見送ります。
一方、バーで一人物思いにふけるレジーは意を決し、兄のアパートに身を寄せるフランシスに会いに行きます。
ヨリを戻そうというレジーに対し、ギャングの道を選んだのはあなたよと告げるフランシス。
それでもレジーは引き下がらずに、二人きりで旅に出ようと言います。

フランシスは弱々しく微笑んで、イビザ島に行きたいと言いますが、表情を曇らせてレジーの元を去っていきます。
その夜、大量の薬を飲み、フランシスは自ら命を断ちます
連絡を受けたレジーはベットの上で冷たくなったフランシスを目にします。
大切な人を突然失ったレジーはただ絶望します。

そんな中、ロンはかねてから邪魔に思っていたペイン殺害をジャックに依頼します。
しかしジャックは脚を撃っただけでペイン殺害に失敗します。
命を狙われたペインは家族の安全と引き換えに、組織の情報をすべて警察に話したのです。
レジーがそのことを知った時はすでに手遅れでした。

ロンに会う為、パーティー会場へと向かったレジーでしたが、ペイン殺害計画について問いただしても、ロンはシラを切り通します。
そこに組織を追い詰める原因を作ったジャックが現れました。
クレイ兄弟の姿を目にすると一瞬硬い表情になりますが、自分は関係ないと言い張るジャック。
あろうことか、フランシスが死んだのはレジーのせいだと彼を煽るような発言をします。

その一言に我を失ったレジーはジャックの頭に銃を突きつけ、引き金を引きますが銃は不発に終わります。
すぐさまテーブルの上のナイフを手にし、パーティー客の目の前でジャックの首を掻き切り、めった刺しにして殺してしまいます。
あまりにも異様なレジーに恐れをなし、その場にいた全員が静まり返ります。

血まみれのレジーに「なぜ殺した?」と問いかけるロンに対し、「お前の代わりだ。お前は殺せないから。」と吐き捨てるレジー。
彼はそのままパーティーを去ります。

その後、ジャック殺害で逮捕された彼は刑務所で33年過ごします

癌を患い情状酌量により釈放され、8週間後66歳で亡くなりました。
一方レジーはジョージ・コーネル殺害の件で有罪になり、ブロードモア病院の精神病棟に収容されましたが、心臓発作で61歳でこの世を去りました。
こうして双子という運命を背負い、血よりも深い絆を持ったクレイ兄弟は伝説となったのでした。

『レジェンド 狂気の美学』見どころ

レジェンド 狂気の美学の見どころについて大きく3点、それぞれ解説します。

一人二役で兄弟演じるトム・ハーディの演技力

トム・ハーディがレジェンド 狂気の美学で一人二役を演じる
今作の見どころはクレイ兄弟を一人二役で演じているトム・ハーディの演技力です。
スマートで喧嘩も強く、フランシスと過ごす時は非常に穏やかな優しい男の顔になるレジー。
トム・ハーディはそのルックスと表現力で、レジーの魅力を最大限に引き出しています

一方でロンを演じている時の彼は全くの別人です。
ロンが現れるだけで、何をしでかすか分からない恐怖感を感じてしますし、レジーと同じ顔なのに狂気がにじみ出た表情に見えるのも、トム・ハーディが細かなところまで演じ分けているからではないでしょうか。

彼は台本を読んだ際、自らレジーとロンの一人二役を演じたいと監督に申し出たそうです。
そして双子を見事に演じ分けました。
共演者たちも、瞬時にレジーとロンに切り替わるトム・ハーディーの演技を目にして、大変驚いたようです。

初めにロンのセリフを録音して、それを流しながらレジーのシーンを撮影したそうですが、どのシーンを見てもトム・ハーディが二人いるように見えるほど、彼はナチュラルにクレイ兄弟を演じています

レジーという男

兄レジークレイを演じるトム・ハーディ
作中で最も魅力的なキャラクターはやはりレジー・クレイです。
その知性とカリスマ性で組織を大きくしたレジーですが、彼一人であれば築きあげた帝国で王として君臨し続けたでしょう。
しかし度々トラブルを起こすロンの尻拭いに奔走し、愛するフランシスと堅気の世界で幸せに暮らしたいと願いながら、彼女を失い、レジーの世界は崩れていきます

レジーは暴力的なロンとは対照的で、全てを手にした勝者に見えます。
しかしそれは本当の彼の姿でしょうか?
実は一番狂っているのは、レジーではないでしょうか

やられたらやり返すという面を持っていた彼は、チャーリーの部下に車をぶつけられた時は彼が食事する店に車ごと突っ込んでやり返しました。
また、ギャングとしての生き方を否定し、頰を叩いたフランシスに対しても、彼女の心と体に傷をつけるやり方で仕返しをしています。
ロンの方を狂人と見てしまうのですが、実はレジーも普段の表情の下に狂気を隠していたのです。

光も陰も知っている、善と悪が混在した人物だったからこそ、レジーの姿は魅力的に映り、人を惹きつけて止まなかったのだと思います。

狂気の塊、ロン

狂気で命知らずの弟を演じるトム・ハーディ
兄レジーの成功を喜ばず、問題を起こしては彼の足を引っ張り、最終的には二人の組織を壊滅させてしまったロン。
生まれた時からずっと一緒に生きてきた双子の兄弟だからこそ、ロンはレジーが離れていくのを許しませんでした。
ロンにとってレジーは自分の半身でした。
だから一緒にいるのが当然であり、長く離れていると自分を保っていられないと思い込んでいたのではないでしょうか。

映画冒頭シーンでは、ロンが刑務所にいる間に不安定になり、精神病院に収監されていた説明があります。
またレジーが刑務所にいる間、ロンの症状は悪化し、周りを唖然とさせる行動ばかりしていました。
フランシスのことも邪険にしていたのも、レジーを取られたくないからだったのだと思います。

またロンは、自分のように狂気に身を委ねて生きることを、レジーにも望んでいました
そしてロンの狂気に引きずり出されるよう、映画終盤ではレジーが暴力的な面をさらけ出していきます

そんなロンから逃れられないレジーは、ラストシーンでジャックを殺した後に「お前の身代わりだ。お前は殺せないから。」と吐き捨てるようにロンに言うのです。

レジーを求め、自分と同じであってほしいと望み、彼の狂った部分を引き出したロン。
いつも一緒だった双子だからとそう考えるのも分からなくはないのですが、ロンがやったことを考えると、やはり彼は狂気の塊だったのだと思います。

『レジェンド 狂気の美学』感想

全く違う性格の双子を演じ、自分自身と共演するトム・ハーディの姿が映し出される今作では、彼の魅力をたっぷりと味わうことができます
表と裏の顔を使い分けるレジーと、自分の思うがままにいきる狂気の塊ロン。
映画を見るたびに、彼の演じるクレイ兄弟の危ない魅力の虜になっていきます
トム・ハーディファンとしては、スーツを着こなし、違うタイプの二人の男を演じる彼を見ることができて、非常に満足できる作品でもあります。

殴り合いなどの暴力的なシーンも出てきますが、60年代のレトロな雰囲気やファッション、そしてジャズなどの音楽が映画を彩っているおかげで、全編通して血みどろのギャング映画という感じはありません。
例えば兄弟ゲンカのシーン。
ただの殴り合いであれば、痛々しく、暴力的なシーンですが、BGMのドラムの音が上手く使われていて、レジーとロンの緊迫した様子や、レジーが繰り出すパンチの重みなどが効果的に表されています
60年代という時代設定と映画の魅力を深める音楽の使い方にも注目してみてほしいです。

『レジェンド 狂気の美学』評価

実在した伝説の双子のマフィアを描き、トム・ハーディが一人二役に挑戦して見事なクレイ兄弟を演じきっている、『レジェンド 狂気の美学』。
今作では、トム・ハーディが全く違う性格の二人を演じ分けていて、これでもかと言うほど、彼の魅力を堪能できる作品になっています。

愛する人がいて、仕事でも成功を手にしていたはずのレジーが、狂人ロンに自分の世界を壊され、少しずつ狂気をむき出しにしていく様子は、見ていて切なくもあり恐怖も感じます。
切りたくても切ることができない双子の絆を、見ているこちらが苦しくなるほどに、トム・ハーディが表現しています。

頭の切れるギャングであり、愛するフランシスへ一途に愛を示す一人の男であり、そして血よりも深い双子の絆を誇りに思い、またそれに苦しめられるレジー。
手が付けられないほど凶暴で、得体のしれない恐怖感を抱かせる狂人ロン。
裏社会でしか生きられないギャングであり、誰にも止めることができない狂気を抱えていたこの伝説的な双子を演じるトム・ハーディの姿は圧巻です。

スーツ姿の格好良いトム・ハーディも映画をお勧めしたい点の一つですが、心に刺さるような物語を求めている人には、是非見てほしい作品です。

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