世界の図書館従事者が憧れるのが「ニューヨーク公共図書館」と言われています。
19世紀初頭に建築されたボザール様式の本館は観光名所にもなっており、市内には92の分館が建てられています。
市民の憩いの場だけでなく、多くの芸術家にも愛され、世に出る機会が出来た場所としても有名です。

何故「知の殿堂」として、世界中にその名が響き渡るまでになったのでしょうか?

そこには、普段の業務の他にも、誰にでも気軽に利用してもらえる為にはどうしたらいいかと連日会議を開いて試行錯誤を繰り返したりと、多彩な仕事ぶりの裏付けがあります。

数多くのドキュメンタリー映画を手掛けた巨匠、フレデリック・ワイズマンが、滅多に入る事の出来ない図書館の裏側にまで潜入して制作した、渾身のドキュメンタリー映画を紹介します。

「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」あらすじ

館内の一角では「利己的な遺伝子」で知られるドーキンス博士が講演を開いています。
内容は、真っ向からの政治批判です。
またある日には、人種差別をテーマにした講演が行われています。
図書館が企画したイベントには、どちらも大勢の聴衆者が訪れ、耳を傾けています。
これが「知の殿堂」と謳われている図書館の、日常のひとコマです。

勿論、図書の貸し出しも行っています。電話での問い合わせに対応したり、個人の都合に照らし合わせた書籍を紹介したりと、丁寧な対応には、好感を持てます。

表だった図書館業務の裏側では、ネット環境の整っていない情報弱者に、如何に図書館を利用してもらえるか?書籍のデジタル化や、溜まって行く書籍をどう残して行くか等、連日の様に会議が開かれています。

そこには常に、大都市のハブ(中心地)として、如何に利用してもらえるかを念頭に置いた、図書館側の強い姿勢を感じます

「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」ラスト(ネタバレあり)

館内では、高齢者が音楽に合わせてダンスを踊り、所有する絵画で展覧会が開かれたり、コンサートが開催されています。
参加者や聴衆者は多岐に渡り、中には興味も無く、ただ休めるだけで来ている様な人の姿も見られます。そんな人達でも、図書館側は「いずれ興味を持ってくれるかもしれない」と、優しく受け入れます。

ニューヨーク市から出る運営費と、民間側が出す運営費で成り立っている為、「公立」ではなく「公共」と銘打たれています。

ある日の会議では、市からの援助は何時まで続くか解らない。
と、現状を考慮しながら、新たな運営方法を模索しています。

無料閲覧用の写真集がある部屋では「アンディ・ウォーホルはここで全てを盗んで行き、殆どのニューヨーク在住の芸術家が利用している」と職員が説明し、ある分館では黒人・同性愛の差別に置かれている人達が集まって、この施設にあるDVDが無ければ生きて行けないとばかりに賑わっています。

ニューヨーク公共図書館は多くの利用者と観光客に支えられ、また、時代の流れを意識しながら、改革を進め、これからも、何時までも利用してもらえる施設として運営されて行きます。

「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」見どころ

ニューヨーク公共図書館エクス・リブリスの見どころを4点順に紹介していきます。

敷居の低い利用方法を目指す姿勢

ニューヨークには様々な人達が住んでいます。
一般人は勿論ですが、無職・同性愛者・差別や貧困に喘ぐ人・情報弱者など、大都市の歪みに巻き込まれて苦しむ人も多くいます。
図書館側はその様な人達にも安心して利用してもらえる様、設備の見直しや気軽に参加出来るイベントを連日開催しながら、利用者を増やしています。
立派な門構えでありながら敷居を低くし、職員達のサービスに徹底する姿勢には、頭が下がる思いです。

タブー無き発言

冒頭でドーキンス博士が「この国には無宗教者が大勢いるのに、テレビに出ている政治家たちはそれを解っていない」と言い放つシーンに、発言の自由を感じます。
他にもエルヴィス・コステロやパティ・スミスが登場し問題提起と取れる発言を交わしますが、それを多くの市民が、観覧席で聴き入ります。
有名人を呼んだからと言って俗な方向へ走らず、図書館の品位を保ちながらも自由な発言を制約しない図書館側の姿勢に、文化の成熟具合を感じます。

巨匠「フレデリック・ワイズマン」渾身の作品

監督は、ドキュメンタリー映画の巨匠として知られるフレデリック・ワイズマンです。
1930年生まれ。
1967年に「チチカット・フォーリーズ」で監督デビューして以来、1年から1年半のペースで作品を発表しており、その精力的で旺盛な活動から「生ける伝説」とも称されています。
この作品は12週間に渡って撮影されました。
極限まで考え抜かれた画面構成と編集により、公共性とは何か?アメリカにおける民主主義の根本とは何か?を真正面から問う作品に仕上がっています。

データの古い箇所は見当たるが…

アメリカで2017年に上映された作品です。
本編では「ネット環境が整っていない何百万もいるニューヨーク市民」に、如何に図書館を活用してもらおうかと議論する場面があります。
しかし、出て来る言葉が「ブロードバンド環境」と、少し前のネット環境を話題にしており「wi-fi」が出て来ません。

どうしても古さを感じてしまいますが、図書館の職員が市民に向けたサービスを提供すると言う考えが変わっていないと言う部分だけを抽出して、捉えてみる必要はあります。

「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」感想

誰にでも分け隔てなく利用してもらえる施設を目指し、日々努力を惜しまない職員の真摯な働きぶりに感心しました。
ニューヨーク在住者、並びに勤務先のある人なら無料で会員になれますが、人種の坩堝であるニューヨークだからこそ、差別や偏見に関係なく利用してもらえる施設を目指す姿勢は、必然ではありますが、なかなか真似出来るものではありません。
市の出資と民間からの出資で成り立つ「公共」と言う、開かれた施設を目指した結果です。

日本の図書館も、映画に出て来る様な子供達への絵本の読み聞かせを開いたり有名作家を招待しての講演会を開いたり産業支援センターと言った起業のアドバイスをする施設と連携したりと、活用してもらう為の様々な努力をしています。

文化も規模も全然違います。
「それに比べて日本の図書館は…」と比べるのは、ナンセンス
でしょう。

上映時間が205分とかなり長い作品です。
映画館では途中で10分間の休憩を挟みました。興味の無い方には中、苦痛を感じるかもしれません。

「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」総括

「1日中図書館にいても飽きない」「週に1回は利用する」「書店には毎日通う」等、本が好きな方やアートが好きな方の知的好奇心をくすぐります

見る側を選ぶ派手さの無いドキュメンタリー映画ですが、「知の殿堂」の裏側を垣間見たり、アートが身近な物であると気づかされる事には間違いありません。
眺めているだけでも充分に楽しめます。

日本の図書館も、企画を立てて利用者を増やそうと努力する一方で、民間が加入した事で、古い蔵書を無断で処分すると言った事案も発生し、時代に逆行した問題が起きています。
書籍のデジタル化も進んでいる中で、過去の書籍や資料をどの様な形で残し、未来に繋げて行くか?も、考えさせられます。

「ニューヨーク公共図書館」は世界一と称されるだけあって、時代の最先端を進んでいます。

街の図書館が市民生活を強く支えている事も解らせてくれる、ドキュメンタリー映画です。