『レヴェナント:蘇りし者』は、主人公ヒュー・グラス演じるレオナルド・ディカプリオが悲願のアカデミー賞主演男優賞を受賞し、悪役を演じたトム・ハーディは同賞助演男優賞にノミネートされました。
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞監督賞、作品賞そして脚本賞を受賞しているアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが監督を務め、『ゼロ・グラビティ』、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、そして今作で3年連続のアカデミー賞撮影賞を受賞した、エマニュエル・ルベツキ撮影監督が息をのむような美しい自然の姿を映し出しています。
そして世界的に活躍しているミュージシャン、坂本龍一が音楽を手掛けています
その美しい映像と音楽によって見るものを別世界へと引き込む今作は、父と子の絆を描いた物語であり、大切なものを奪われた男の悲しい復讐の物語になっています。

あらすじ

ヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)はガイドとして、先住民族の血を引く息子ホーク(フォレスト・グッドラック)と共に、ヘンリー隊長(ドーナル・グリーソン)の一団に加わっていました。
一団はアリカラ族の襲撃を受け、多くの犠牲者を出します。
陸路を使い砦に戻る提案をするグラスに、フィッツジェラルド(トム・ハーディ)は反対しますが、隊長はグラスを信じ、深い雪に覆われた山道を進みます

偵察に出た際、グリズリーの親子に遭遇してしまったグラスは母グマを倒すものの、体を引き裂かれ瀕死の状態で発見されます
重傷のグラスを運ぶことは難しく、隊長は「死を見届けること」を条件に、ホーク、ブリンジャー(ウィル・ポールター)、フィッツジェラルドを残します。
報酬の為に残ったフィッツジェラルドはグラスを殺そうとします。
そして止めに入ったホークの命を奪うとブリンジャーに嘘をつき、グラスを置き去りにしたのでした。
息子を目の前で殺されたグラスは復讐のため、生きることを諦めず、追跡を始めます。

ラスト(ネタバレあり)

厳しい自然の中、恩恵を受け命を繋いでいくグラス
偶然にもさらわれていたアリカラ族の娘を救います
その一方、グラスの水筒を持った男が砦に現れ、隊長は捜索隊を率いて砦の外へ向かいます。
そして死んだと思っていたグラスを見つけるのです
隊長はブリンジャーを捕らえ、激しく責めます。
フィッツジェラルドを探しますが、彼はすでに逃げていました。
グラスと隊長はフィッツジェラルドを追いますが、隊長は撃たれて命を落とします。
グラスはその遺体を使い、遂に憎い相手を捉えます。撃たれても逃げ続けるフィッツジェラルドと彼を追いかけ続けるグラス

観念したフィッツジェラルドは彼と対峙します。
壮絶な闘いの末にフィッツジェラルドの首に手をかけたグラス。
復讐を遂げても息子は戻らないと言われた時、川下にアリカラ族がいることに気が付きます
グラスは復讐を神に委ね、フィッツジェラルドを川に流します。
彼はアリカラ族に命を奪われました。
グラスも死を覚悟しますが、彼らは止まることなく馬を進めていきます。

アリカラ族の中には、グラスがフランス人から救った女性の姿がありました。
復讐を遂げたグラスは雪道を進んでいきます。
ふと顔をあげると、そこには妻の幻影がありました。
優しく微笑み、身を翻して光の先へ進む妻の姿を、グラスは一心に見つめ続けるのでした。

見どころ3点

父と子の深い絆

この映画で注目して欲しいのは、グラス親子の物語です。
白人とは違う異質な存在として描かれてるグラス親子にとって、お互いの存在が生きる理由の全てでした。
息子を守るために生きてきた父と、父の姿を見て成長していった息子
父と子の絆はとても深いものでした。

ホークは父の最期を見届ける為に山に残りますが、これは彼が一人で生きていく決意のようにみえます。
死に向かう父の側に寄り添うことで、死を受け入れる準備をしていたのでしょう。
また父にとっても、息子は全てでした。
自分の持つ全てを息子に教え込んできたのは、先住民族への差別がある世の中で、息子が一人でも生きていけるようにという親心からだったはずです。

しかし二人の最後の時間は、フィッツジェラルドによって奪われてしまいます。
父を守る為に命を落とした息子を目にして、グラスはどんな気持ちだったのか
大切な息子を奪った男へ復讐をするという気持ちが、瀕死の状態だったグラスを前へと突き動かしていったのです。
復讐を遂げても息子は戻ってきませんが、それでも彼が進み続けたのは、それが怒りと悲しみを鎮める唯一の方法だったからではないでしょうか。
激しい戦いに目が釘付けになる対決シーンですが、「息子は自分の全てだった。」と訴えるグラスの姿があります。
父と子の深い絆があったからこそ、この復讐の物語が生まれたのだと気が付かされる、重要なシーンになっています。

高い演技力で表現された悪役、フィッツジェラルド

今作の悪役フィッツジェラルドは差別的でカネのために動き、平然と嘘をつく男です。
ずる賢く、常に己の為に動くフィッツジェラルドは、息子の為に生きるグラスとは対照的に描かれています

そんな悪役を演じているのは、悪役や裏社会の男を演じることが多いトム・ハーディです。
彼が演じることで、フィッツジェラルドの黒い部分がしっかりと表され、狡猾なキャラクターに仕上がっています。
人の命を奪うことに痛みを感じておらず、悪びれることなく嘘を重ねていくフィッツジェラルドは、ゾッとするような怖さを感じさせます。

レオナルド・ディカプリオの素晴らしい演技が観客を映画に引き込んだのは勿論ですが、トム・ハーディがとことん嫌な男を演じたからこそ、見ている側はフィッツジェラルドのずるさに苛立ち、そしてグラスの気持ちに寄り添い、共に復讐の旅をした気持ちにさせられたのではないでしょうか

美しい自然と音楽の力

『レヴェナント:蘇りし物』は暴力的なシーンがなければ、荘厳なBGMを耳にしながら、ただただ美しい自然の映像を見続けたいと思わせられる作品です。

エマニュエル・ルベツキ撮影監督は自然光で撮影することにこだわり、限られた時間の中で撮影が行われたそうです。
そうして撮影された映像を見ると、光が生み出す自然の美しさに心を奪われます。
澄みきった水、深い緑色の森、真っ白な雪、群青色の夜空。超広角レンズで撮影された映像は圧倒的で、自分も大自然の中にいるような感覚に陥るほどです。

坂本龍一が音楽を手がけたことでも話題になりましたが、彼の創り出した音楽はルベツキ撮影監督がこだわって撮った自然の美しさをさらに引き立て、キャラクター達の心情を表し、物語に深みを与えています

彼らの作品は見る側を映画の世界に引き込むだけではなく、現実ではなかなか感じられない、圧倒的な美を体感できる世界へ私たちを誘うのです。
 

『レヴェナント:蘇りし物』感想

今作で念願のアカデミー賞を受賞したレオナルド・ディカプリオはもちろん、徹底した役作りをするストイックな役者トム・ハーディや、様々な作品でタイプの違うキャラクターを演じるドーナル・グリーソンなど、魅力的な俳優がそれぞれの持ち味を存分に見せています。

妻を殺されたという辛い過去を背負いながらも、息子の為に懸命に生きるグラスを、ディカプリオは見事に表現しています。
こんなにも父性を感じられるディカプリオを見られるとは想像していませんでした
また、悪役を演じたトム・ハーディも見事に役にはまり込んでいました。
トム・ハーディファンとしては、他の映画で悪役や悪い男を演じる彼もとても魅力的に思うのですが、今作のフィッツジェラルドだけは好きになれないと思わせるほど、狡猾で嫌な男を演じきっています。
『インセプション』でも共演しているディカプリオとトム・ハーディですが、今回は仲間ではなく対峙するキャラクターとしての競演です。
ストイックな役者同士がぶつかり合う姿は非常に見ごたえがあります。

『レヴェナント:蘇りし物』総括

美しい自然の映像と荘厳な音楽に圧倒され、復讐のために生きることを諦めない男の姿が描かれた『レヴェナント:蘇りし者』は、見る者を別世界へと連れて行ってしまうような、不思議な力を持った映画です。目の前に迫る自然の美しさとその美しさ、厳しさをより深く感じさせる音楽の力が今作をさらに魅力的な作品に仕上げています。

息子の命を奪った男への復讐という悲しいテーマの物語ですが、グラス親子がどれだけ深い絆で結ばれていたのか、ディカプリオの名演技から感じ取ることができます。
時に厳しく、時に温かく、息子ホークと接する父親の表情がとても印象的です。

グラスが死の淵から這い上がり、復讐を遂げる為に懸命に生きるように、作中では生と死が繰り返し描かれています。
様々な形の生と死、先住民族と白人の関係、そして毛皮の為に乱獲される動物たちなど、色々と考えさせられることが多い映画でもある今作。
圧倒的な美しい世界と、復讐のために生きる男の物語を目にしながら、歴史や自然のことも考えて鑑賞して欲しい作品です。

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