「新聞記者」と言う映画をご存知でしょうか?
公開初日からSNS上で話題と評判を攫い、一部の映画館では連日超満員を記録。
興行収入も億単位を突破する等と、大ヒット映画の仲間入りを充分に果たしています。
しかし、この件はマスメディアで紹介される事が殆どありません。
そこには、各マスメディアが現政権へ忖度していると言う厚い障壁が絡んでいます。
政府からの圧力で政権のご機嫌取りとしか映らない報道しか出来ず、批判すれば即、押し潰されてしまう事が可視化されてしまった為に、何もモノが言えないのが現状です。
この映画もキャスト・スタッフの努力が殆ど世間に知らされる事無く、知る人ぞ知る作品として葬られてしまいかねません。
主役の女性記者役を日本の女優にオファーしても、後が怖いからと何人にも断られた経緯があります。
一見、曰くつきの様で、実は真っ当な政治批判に繋がっている映画「新聞記者」を紹介します。
タップ(クリック)で目次が開きます
『新聞記者』あらすじ
東都新聞社会部の女性記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)。
父は新聞記者だったが、ある件が元で、自死。
彼女の心の奥底には尊敬する父の無念の思いが込められ、それを原動力として、精力的な取材活動を続けていた。
ある日、エリカの元に、表紙にサングラス姿の羊が描かれた匿名のFAXが送信されて来る。
そこには大学新設計画に関する極秘情報が記載されていた。
現政権を振るがし兼ねない情報を元に、エリカは取材を始める。
内閣情報調査室の若手官僚・杉原(松坂桃李)は既婚者。
子供が産まれてくる以上、仕事も頑張らないといけないが、そこの業務と言えば、現政権に不都合なニュースをSNS等を使ってコントロールすると言う、仕事とは思えない仕事だった。
上司には「日本のためだ」と諭されるが、こんな処にいていいのかと、葛藤に苦しむ日々となっていた。
ある日、杉原はかつての上司・神崎(高橋和也)と再会する。
何か思い詰めた様子の神崎を心配するが、その予感は当たってしまい、数日後に神崎はビルから飛び降り自殺をする。
神崎の葬儀場。容赦ない報道陣に囲まれる遺族を、杉崎が守る。
そこには、取材目的で現れたエリカの姿。
しかしエリカは報道陣に対し、この取材が必要ですかと問い詰める。
これが、エリカと神崎の出会いだった。
『新聞記者』ネタバレラスト
内閣情報捜査室が、極秘に神崎をマークしていた事実を知る杉原。
一方、新聞社には大学新設計画の件で政府から圧力が。
「記事にするなと言うんですか」と憤るエリカ。
今のまま記事にすると誤報になると叱責する上司。
新聞記者だったエリカの父は、誤報が元で自ら命を絶っていた…。
それでもエリカは真相を探ろうと、同じ思いの杉原と共に動き出し、神崎がこの件に深く関与し、自己犠牲になったのでは?
と疑念と抱き、証拠資料等を探り始める。
神崎の自宅へ行くと、亡妻が一冊のスケッチブックを見せる。
そこには、FAXに描かれていた、サングラス姿の羊のイラスト。
そして傍らに一冊の洋書。
そこには、ユタ州で生物兵器の実験場の近隣で羊の大量死が起きていたと書かれていた。
編集部もスクープ記事にと動き出すが、これだけではまだ証拠が足らない。
杉原は神崎の持っていた資料を見つけ、スマホで撮影。
エリカは神崎の後任の男を取材し、足止めさせる作戦に。
そしてスクープ記事が、東都新聞の1面を飾る。
その後には良いニュースと悪いニュースが訪れ、家族を持った杉原は、更に苦悩の道を進んでしまう…。
『新聞記者』見どころ3点解説
- 東京新聞・望月衣塑子記者とは?
- どこかで見た事のある問題が投影されている
- 数々の演技賞に選出されてもおかしくないキャスト陣
東京新聞・望月衣塑子記者とは?
原案は望月衣塑子著「新聞記者」(角川新書)です。
菅官房長官の記者会見で毎回辛辣な質問をしては官邸側を困らせ、発言と解答に制限が加わった女性記者として知られる様になりました。
TwitterやFacebookもフォロワーも多く、権力側に迎合しない独自の視線が信頼を集めています。
作品のモデルになっている東京新聞は、常に権力側の動きを注視する記事を書く事で知られています。
テレビの画面内で政治討論をする場面が少しだけ登場しますが、そこに出演されています。
どこかで見た事のある問題が投影されている
大学新設計画・レイプ事件の揉み消し等と、政権下で起きた事件と酷似したエピソードが出て来ますが、本来ならば、もっとテレビや新聞等の媒体が追及して然るべき事件です。
映画なので当然、脚本の中でエンタテイメントとして昇華されています。
しかしそれが「マスメディアの代弁者として告発した」と言う扱いでいいのか?
映画化されたから良しとするのか?
と、終息したと捉えるのは愚問でしょう。
メディアの動きと政権下の圧力を、観終えた後でも考えてしまいます。
数々の演技賞に選出されてもおかしくないキャスト陣
女性記者役は韓国の女優、シム・ウンギョン。
若手エリート官僚を松坂桃李が演じています。
誠実に真相を追い詰める記者と、自らが置かれた立場と真実の間で最後まで苦悩する官僚が交差して行くシーンは迫真に迫る演技で、最後まで惹きつけます。
他にも、杉原の上司で無感情のまま政府の言いなりとして動く官僚・多田を演じる田中哲司など、個性的なキャストが揃い踏みです。
子供が産まれた喜びを演じる本田翼の存在は、重くて暗い作品を一瞬だけ明るくしてくれます。
『新聞記者』感想
日本の政治ドラマの場合、権力側の史実に基づくとか歪曲して批判をする作品が多いです。
しかしこの作品は、史実に基づきつつ、真正面から政権批判に徹しています。
「言いたい事を代弁してくれている」と、カタルシスを感じるのは、現政権に不満や疑問を感じる人達でしょう。
また、そんな人達が大勢いると言うのが、大ヒットの証と言えます。
なので、現政権の支持者には、耳の痛い映画とも言えます。
「日本人の父と韓国人の母のもと、アメリカで育った」女性記者との設定ですが、シム・ウンギョンの日本語も完璧で立ち振る舞いも一匹狼の女性記者そのもの。
日本人記者として描いても、違和感は無かったかもしれません。
最後まで苦悩する松坂桃李のエリート官僚役は、役者としてひと皮剥けたと捉えていいでしょう。
細部まで徹底した役作りは、もっと評価されるべきです。
政治のニュースを敬遠しがち・興味が無い・テレビや新聞でしか情報を得ないと言う方には絶対に観てほしい作品です。
『新聞記者』総括
何十年も先になって『令和時代を振り返る』特集が組まれた時「当時はこれがリアルな政治とマスコミだったんだよ」と紹介出来る程、精巧な作品と言えます。
圧力に屈したまま、この作品以上に酷くなっているのかは、誰にも解りません。
しかしSNS上で絶賛され口コミで拡がっている作品なのに、政府側の目を気にし過ぎて全く話題にも取り上げないマスコミの姿勢は、いかがなものでしょうか?
政権批判に徹した作品だから、マスコミの黙殺は当然である。
その為に渾身の作品を生んだキャスト・スタッフ陣の仕事ぶりが正しく評価されず、知る人ぞ知るレベルで終わってしまう。
エンタテイメント界のこれからを考えると、負のスパイラルに陥っているとしか映りません。
「そんな映画に出演すると仕事が来なくなるぞ」と危惧するのも、ひとつの脅しです。
ラストに出て来る「この国の民主主義は、形だけでいい」と言うセリフを、聞き流すか?それとも真剣に考え直すか?
観客側に問題提起をしている点も、見落としてはいけません。