2013年「凶悪」以降、日本アカデミー賞など60以上もの受賞を果たし、名だたる俳優たちがいまもっとも出演を熱望する映画監督「白石和彌」。
いつかは撮らないといけないと感じていたテーマ【家族】を初めて真正面から挑み、15年前の事件によって家族の岐路に立たされた、ひとりの母親と子どもたち三兄妹のその後を描きます。
キャストは佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子に佐々木蔵之介など実力派ばかり。
”一夜”にして激変する家族の運命を通し、尊くも時に残酷な”家族の絆”、そして言葉にできない”究極の愛”を観る者全てに問いかけるヒューマンドラマ「ひとよ」を紹介します。
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ひとよ作品情報
公開 | 2019年11月8日 |
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監督 | 白石和彌 |
原作 | 桑原裕子 |
脚本 | 高橋泉 |
音楽 | 大間々 昴 |
主なキャスト | 佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子 |
ジャンル | ヒューマンドラマ、PG12 |
上映時間 | 122分 |
ひとよ予告動画
ひとよ予告編
ひとよ原作
1976年7月19日生まれ、東京都出身。劇団KAKUTA主宰。作・演出を兼ね、俳優としては結成以後全本公演に出演。長塚圭史演出「冒した者」や白井晃演出「ペール・ギュント」、福原充則作・演出「俺節」をはじめ、数多くの舞台に出演。俳優業の他に、ブロードウェイミュージカル「ピーターパン」の潤色・演出、映画『ランブリング・ハート』、ドラマ「ぬけまいる~女三人伊勢参り〜」の脚本、PS2ソフト「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」のシナリオなど、舞台・テレビ・ゲームシナリオ・ノベライズ小説と多岐にわたり、演出家・劇作家として活躍。09年、劇団公演「甘い丘」再演の作・演出で平成21年度(64回)文化庁芸術祭芸術祭新人賞を受賞。また、脚本家として手掛けた世田谷パブリックシアター主催「往転」(作・演出)が第56回岸田國士戯曲賞、第15回鶴屋南北戯曲賞の最終候補になるなど高い評価を得た。15年、劇団KAKUTA 公演「痕跡(あとあと)」が第18回鶴屋南北戯曲賞受賞。18年「荒れ野」が第6回ハヤカワ悲劇喜劇賞、第70回読売文学賞戯曲・シナリオ部門を受賞。
ひとよ小説
映画とはまた少し違うストーリー。
『ひとよ』あらすじ
小さなタクシー会社を運営している稲村家。
父親は家庭内暴力で荒れており、子どもたちは暴力に怯えただただ耐えるだけの日々。
どしゃぶりの雨が降る夜、いつものように母親と子どもたちは夕飯を取る。
簡単な夕飯を済ませた後、母・こはる(田中裕子)は神妙な表情で子どもたちによく聞いてほしいと話を切り出す。
愛する子どもたちを守るため、母は愛した夫を殺害したのだった。
15年後の再会を子どもたちに誓い、罪を償うため車に乗って出頭していく母。
後から母親と離れたくないと必死に追いかける長男大樹(鈴木亮平)、次男雄二(佐藤健)、長女園子(松岡茉優)達だが見失う。
時は流れ、三兄妹は事件の日から抱えたこころのキズを隠したまま大人となる。
家庭を持ち子供もいる大樹。
実家を離れ東京で小説家の夢を追い続ける雄二。
美容師の夢を諦め、スナックで働く園子。
大人になった子どもたちの元に15年後、約束のため母親が現れる。
皆が願った将来とは違ってしまった今、再会を果たした家族がたどり着く先は...
壊れた家族は再び繋がることはできるのか?
『ひとよ』見どころ3点
1点目:演技派役者陣
母親を演じる田中裕子さんをはじめ出演陣の演技力は見事です。
冒頭で田中裕子さんがタクシーの運転で旦那を轢く際の表情、子どもたちに別れを告げる際の表情からラストの園子に髪の毛を切ってもらうシーンの表情までこれぞ女優!という幅の広さを感じさせてくれます。
また、脇を固める音尾琢真さん、筒井真理子さん、浅利陽介さん、韓英恵さん、MEGUMIさんなどの演技も実に見事。
重たく暗くなりがちな作品テーマに対して、見事にそれぞれの抱えている問題を表現しています。
芸人”千鳥”の大悟さんが出演していますが良い意味で見事な演技にも注目です。
2点目:デラべっぴん
重たく暗いテーマの今作に対して、クッション役となっているのがアダルト雑誌「デラべっぴん」。
実在したアダルト雑誌ですが、家族がこのデラべっぴんを巡ってちょっとした事件を引き落とします。
特にお気に入りは庭で3兄妹が「デラべっぴん」の発音についてやり取りするシーン。
ふいに”ホッコリ”させてくれるシーンであり、演じているのではなく本当に3兄妹だと錯覚するくらいに仲の良さも感じさせてくれるアイテムとなっています。
3点目:堂下親子のストーリー
佐々木蔵之介演じる堂下は何かとワケありのニオイを感じさせてくれますが、物語が進むにつれて徐々に堂下の素顔が明らかになっていきます。
堂下にとって息子と再会した『一夜』はどういった意味を持つのか?
次にまた会うことを約束し、別れた堂下親子でしたが思わないところで2度目の再会を果たすことになっります。
堂下が息子に気づいた後どうしたのか?
スピンオフが期待できそうな、もう1つの親子のその後をあなたなりに考察してしまうでしょう。
『ひとよ』ネタバレ結末
母親は子どもたちに「何にだってなれるし、自由を手に入れる」事を望んだからこそ父親を殺害した15年後。
約束通り母親が帰ってきます。
すんなり母親を受け入れた稲村社長をはじめとするタクシー会社の社員たち。
それとは対象的に母親とどう接していけばよいか悩む3兄妹。
母親が原因で「なりたかった美容師になる夢を諦めていた長女・園子」(松岡茉優)は母親が登場した瞬間こそ動揺は隠しきれませんでしたが素直に喜び受け入れます。
「幼少期からの吃音と母親が起こした事件のことで、ますますコミュニケーションを苦手としてしまう」長男・大樹(鈴木亮平)も受け入れますが、母親のことを妻に隠していたのがバレ、ますます離婚の危機に。
そして、あからさまに態度に出して母親に強く当たる次男・雄二(佐藤健)。
家族のことをネタにし、それによって実家のタクシー会社にも嫌がらせを受ける要因を作っていましたが「兄弟で唯一母親が父親を殺してまでつくってくれた自由に応えようと今も夢を追い続けていたのでした」
なかなか本音で母親とぶつかれない雄二はついに自身が書いた記事のことで兄妹たちとも衝突します。
そんな時、3兄妹の元に「堂下が酒を飲みながら運転しているだけでなく、助手席に母親が乗せられている事を聞かされます」
雄二の運転で兄妹は母親を探します。
ついに見つけた堂下(佐々木蔵之介)のタクシーですが、雄二たちの呼びかけに一切応じる様子もなく「必要とされない親なら車のまま海に飛び込んでしまおう」。と母・こはる(田中裕子)に語りながら海へ向かって進むタクシー。
雄二は堂下のタクシーに車ごと体当たりし、間一髪のところで母親を救出。
雄二は今までのありったけの想いを叫ぶのでした。
後日、美容師を夢見ていた園子は母の髪の毛を切ってあげようとします。
それを楽しみに待っている母を見た兄弟。
そこにはそれぞれの心の葛藤を乗り越えた家族の姿がありました。
『ひとよ』ネタバレ感想
涙無しには観られない内容でした。
殺人を犯した家族という難しく、暗くなりがちなテーマを取り上げた作品でしたが、ところどころにクスッと笑える箇所もあり緩急ついた映画です。
それぞれの背負ってきた人生や、家族に対する想いから発する言葉は観ているものに対して深く考えさせられるメッセージでもありました。
個人的にはMEGUMIさん演じる長男の妻の言葉「あなたの悩みは家族の悩み」というのが結婚している私に深く突き刺さりました。
また、愛情を持って育ててくれた親に感謝する気持ちや兄弟の絆にウルッとくる人も多いでしょう。
介護に疲れた時など、ある「一夜」に本音ではないが思わず出てしまった一言や、取った行動。
ある人には「なんでもない一夜」かもしれませんが、ある人には「特別な一夜」にもなる。
意味の付け方はその人次第だというのは印象的でした。
それぞれ抱えている家族に対する問題は様々ですが、多数の人に出演者の”誰か”に共感できる家族が垣間見れるでしょう。
そのため多くの人におすすめできる作品です。
ただ、リアリストには突っ込みたい部分も多く残念だと評価する人も出てくる作品でもあります。
- 自分の敷地内で轢いて殺人は無理があるだろう。
- 子供の時に運転は現実的ではない
- ラストのタクシー衝突後などは無理がある
という様な人にはオススメできないかもしれません。
周りの環境で最悪の結末を生んでしまうのは同時期に公開された「JOKER」だと感じました。
ひとよは”家族”をテーマにしていますが、同時期に公開された”兄弟”をテーマにしている「影踏み」もこの映画が好きならおすすめです。