シン・ハギュンとド・ギョンスの初共演映画は、サスペンスストーリーの中で韓国の社会性を描いた内容となっています。
流行の移り変わりの激しい韓国では日本でいうところの「老舗」と呼べる店自体が非常に少なく、数年単位で開店・閉店を繰り返しているのが特徴です。
また、新卒学生の就職難や若手社員のリストラも身近なところで起きている問題の1つです。
映画公開後にテレビを賑わせた韓国・済州島(チェジュド)のイエメン移民問題も、この作品に通ずるものがあります。
イ・ヨンスン監督は、出演俳優それぞれの演技が引き立つコメディー要素も満載のストーリーの中で、こうしたリアルな韓国社会の様子を非常にソフトに描いています。
各種映画サイトにて低スコア・辛口レビューが目立つのは、やはりストーリーそのものへのアトラクション性を期待する方が多かったからではないかと思います。
どちらかというと、あまり身の内や心情を吐露しない登場人物たちが抱えている社会生活での重圧を、細かな描写から察することで楽しめる作品になっています。
また、先日2019年6月に入隊を電撃発表した人気アイドルグループEXOのD.O(ド・ギョンス)の出演作として再び注目を集めている作品の1つです。
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『7号室』あらすじ
潰れかけの個室DVD店の店長ドゥシク(シン・ハギュン)は最近新人アルバイトを雇い、店を引き払いたいがために人手不足を装って新しい事業主探しを急いでいました。
音楽の道を夢見るタダ働き3ヶ月超えの店員テジュン(ド・ギョンス)は、多額の報酬を条件に知人から受け取った薬物を店の「7号室」で数日預かります。
ある日、物件の買い手希望者が現れ店じまい間近と思えた矢先、店内で新人アルバイトが事故死。
居合わせたドゥシクは気が動転するも契約を優先すべく例によって「7号室」に死体を隠し、絶対にバレないようドアの施錠をします。
絶対にドアを開けられてはいけないドゥシクと早急にドアをこじ開けなければいけないテジュン。
2つの秘密が隠された7号室のドアの前で2人の攻防戦が始まります。
『7号室』見どころ3点
7号室の見どころとして
- 「バレたら死」の攻防戦
- 神仏、4つ葉のクローバー、ラッキー7…
- テジュンと金と音楽と
上記を順に紹介します。
「バレたら死」の攻防戦
ドゥシクとテジュンが繰り広げる、命がけ且つコント紛いの攻防戦はこの映画の最大の見所です。
彼らが必死になるほど傍観者の心を愉快にさせる心理戦。
不本意ながら彼らが置かれてしまった立場に対する怒りや苦しみ、未来への不安や焦りが垣間見れる殴り合い。
そしてお互いの秘密を知り、お互いに秘密を知られたときに、2人の間に芽生える諦めと同質感がクライマックスへといい味を効かせていきます。
死んだアルバイトの生前の姿が、2人の人生を正しい方向へと導いてくれているかのようです。
神仏、4つ葉のクローバー、ラッキー7…
ドゥシクの死体遺棄、テジュンの薬物所持。
どちらも名前の付く犯罪でありながら、それを追う警察のポンコツっぷりは韓国映画あるあるの1つです。
彼らが置かれた状況を思えば、物語の中でところどころに散りばめられた縁起のよいとされるものには登場人物たちの本心が投影されていて、「2人には幸せになってほしい」と願わずにはいられません。
なかでも「1004」という数字は韓国ならではの可愛らしい数字言葉の1つです。
韓国では1004をチョンサと読み「천사(チョンサ)=天使の意味」に通じます。
あらかじめ知っておくとさらに楽しめるプチ情報です。
その他にも、数字にまつわる様々な描写が多く盛り込まれているので「7号室」を取りまく些細な数字にもかなり注目のし甲斐があります。
テジュンと金と音楽と
音楽の道を志ざすテジュンが、客の来ないバイト中も自宅でも四六時中楽曲制作に打ちこみ、デモテープを入れた5枚の封筒をレコード会社に郵送するシーンがあります。
楽曲制作に欠かせないパソコンを質屋に預けて一時的にお金を手にするのですが、その一連の流れからテジュンと音楽の関係性が伺えるようでした。
音楽はテジュンにとってこれから生きる術になる大事な存在でありながら、お金のためにツールを手放すのだからそれほどの窮地に追い込まれていたわけです。
いわば将来を左右する賭けのようなタイミングでした。
実は郵送後のデモテープの行方までははっきりと描かれていない点が気になるのですが、その理由が後々この質屋で描かれる出来事に通じているとするならば…。
補足ですが、その封筒に書かれたテジュンの住所には書き直しのあとがあるのですが消された文字をよく見てみると「욕탕=風呂」、訂正後は文字は「401호=401号」でした。
おそらく昼間は風呂屋で住み込みアルバイトをしており、普段からそこで郵便物を受け取っている。
もしくは、401号というのは別人もしくは架空の部屋番号なのではないか等。
不透明で目には見えないテジュンの現在の生活と未来の姿に期待と想像を膨らませてみてはいかがでしょうか。
オススメできる人とオススメできない人
個人的に感じたオススメできる人、オススメできない人を最後に紹介します。
オススメできる人として、
社会生活の闇を数シーン切り取ったかのような描写がちらほら見受けられ、深堀りしがいのある内容がお好きな方には面白いと感じていただける作品です。
ド・ギョンスが演じる貧乏アルバイトの姿をまだ目にしていないファンの方々、そして俳優としての姿をまだご存知でない方はこの作品から始めてみてはいかがでしょうか。
また、舞台となる江南区の狎鴎亭洞(アックジョンドン)や漢江(ハンガン)、セリフに登場する金浦(キンポ)や大林洞(デリムドン)など、地理的感覚や地域の特色をご存知の方は、お金に振り回される主人公たちとのコントラストや歴史的背景、漢江の存在にまで面白さを見出せるのではないかと思います。
作品全体としての緊迫感はさほど強くないため、じっとりとした狭い店内で起こる攻防戦にどこか物足りなさを感じてしまうかもしれません。
韓国ドラマでよく見かける俳優さんが数多く出演しており、映画の緊張感が少々損なわれてしまったかのような心地がします。
逆にオススメできない人としては、
作品全体としての緊迫感はさほど強くないため、じっとりとした狭い店内で起こる攻防戦にどこか物足りなさを感じてしまうかもしれません。
韓国ドラマでよく見かける俳優さんが数多く出演しており、映画の緊張感が少々損なわれてしまったかのような心地がします。