神経質な大富豪と、貧困層の粗野な使用人。
そんな正反対な二人は、実は最強の組み合わせでした。
「最強のふたり」は、そんな実在の組み合わせをモデルにしたフランス映画です。
まず、大富豪であるフィリップが、事故で首から下が動かせなくなったことや、その介護人として仕えるアブデルのことを書いた[Le Second Souffle(第二の呼吸)]という本を出版しました。
この本がきっかけで、二人はフランスのテレビ番組で取り上げられます。
続いて二人の関係性を描いたドキュメンタリー番組が制作され、更に映画「最強のふたり」へと連鎖することとなったのです。
監督は、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュ。
人権・人種・貧困など、様々な社会的テーマを盛り込んだ本作は、海外でのヒットはもちろん、日本においても第36回日本アカデミー賞において最優秀外国作品賞を受賞する大ヒット作品となりました。
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「最強のふたり」あらすじ
パリに住む富豪のフィリップは、過去の事故のせいで首から下の感覚が無いばかりか、体を動かすこともできず、介護がなければ何もできない状態です。
そんなフィリップが新たに住み込みの介護人を雇うため、自宅で面接会が開かれることになりました。
数名の候補者が集まる中、アフリカ系黒人のドリスも参加していたのですが、ドリスには採用される気がありませんでした。
実は、ドリスは失業保険の給付を受けることだけが目的だったのです。
(就職に失敗した証拠が必要なためです。)
しかし、思いがけず採用されてしまったドリスは、試用期間としてフィリップの邸宅で1ヶ月間付きっ切りの生活が始まることになります。
こうして性格・趣味・社会的立場など、あらゆるものが正反対であるふたりの奇妙な生活の幕が開けます。
次第に心が通じ合い、満ち足りた生活を送るふたりですが…
「最強のふたり」結末(ネタバレ)
ある日、ドリスはフィリップが一人の女性と文通(秘書による代筆)していることを知ります。
奥手なフィリップに業を煮やしたドリスは勝手に文通相手と電話を繋ぎ、食事の約束にこぎつけますが、フィリップは土壇場で逃げ出してしまいます。
それからもふたりの楽しい共同生活は変わらず続きますが、突然ドリスの弟がフィリップの邸宅に訪ねてきます。
ドリスの弟は、麻薬の密売に関わっており、ヘマをしたためにドリスに助けを求めてきたのでした。
そんな事情を知ったフィリップは、必要とする家族の元へドリスを帰す決断をします。
そうしてふたりは別々の道を選びました。
しかし、家族の元に戻って新しい仕事も見つかったドリスに比べ、フィリップの生活は暗く覇気のないものになりました。
秘書から連絡を受けたドリスは、フィリップのもとを訪れ、スポーツカーでフィリップを連れ出します。
どこへともなく、夜を徹して走るふたりの車は、やがて海辺のホテルへと辿りつきます。
ドリスは、過去に逃げ出してしまった文通相手とフィリップを、このホテルでうまく引き合わせたのでした。
「最強のふたり」見どころは主演二人の演技!
神経質な大富豪と、貧困層の粗野な使用人というアンバランス極まりない2人が送る共同生活が見ものです。
ドリスは、仕事においては乱暴で褒められたものではありませんでしたが、フィリップはとてもドリスのことを気に入ります。
それは、ドリスがフィリップのことを介護対象としてではなく、一人の対等な人間として扱ったからでした。
下手な同情・哀れみなどが一切なく、時にブラックなジョークも交わしながら、次第にふたりの間には笑顔が絶えなくなって行きます。
特に、互いを尊敬・尊重し合う関係性に変化していく道のりで起こる困難やトラブルに、人間同士の心でぶつかりあって解決し、仲を深めていく姿には感涙必至です。
中でも、他の人には話せないことを徐々に打ち明けるように語り合うシーンは、この世のどんな絶景よりも美しいと思いました。
人のことを思いやる上での、形式的なおべっかや、自己陶酔型の親切は一切なく、ありのままの態度や感情でぶつかりあうふたり。
一見、どちらも自分勝手なように思えるかもしれませんが、作中では細かく語られていない過去のことに想いを馳せると、徐々に感情移入ができるようになります。
ふたりが日々を共に過ごすことでわかりあい、慈しみあう関係になることで、本作を観る私たちにも、交わされる言葉の裏に潜む繊細な気持ちがひしひしと感じられるようになるのです。
しかも、主演ふたりの演技力がすさまじい!
本作でセザール最優秀男優賞を獲得したドリス役のオマール・シーの演技はいわずもがな、首から下が動かせないため、表情や声ですべてを表現するフィリップ役のフランソワ・クリュゼもまた素晴らしい演技なのです。
障がい者の人権や、人種差別、貧困層にある移民など、本作にはナイーブなテーマがふんだんに盛り込まれています。
そんな本作を深刻な映画ではなく、あくまでコメディやヒューマンドラマとして描き切るにあたっては、ふたりの繊細な心を表現する演技力なしには成し遂げられなかったことだと思います。
まさに”最強のふたり”だと言えます。
避けようのない現実が横たわるそばで、軽妙なユーモアを乗せて語り合い、お互いを成長させていくふたりの姿が必見なのです。
「最強のふたり」総括
本作はお涙頂戴のストーリーではなく、心の奥深くから感動を呼び起こされるような映画です。
丁寧な描写・展開が本作の魅力であり、観る者を過剰に感動させようとはしない、いわゆる大人向けの映画です。
(そのため、フィリップのように神経質な一面をお持ちの方でも、妙に反感を抱くとか、冷めてしまうというようなことはないはずです…!)
繊細なヒューマンドラマに感動し、気づけば心の奥底から涙が湧き出てきていた、というタイプの映画でシンプルに泣きたい方にはオススメです。
本作は、様々なテーマが盛りだくさんであるうえ、映画全体を通して熱量は低めで大きな盛り上がりはありません。
そのため、コメディとしてたくさん笑いたいとか、悲劇に大泣きしたいという、エネルギッシュな映画を求める方にはあまりオススメできません。
また、もし人種や立場を超えた友情をはじめ、本作の扱うテーマに否定的な考えをお持ちの場合は、本作の根本的なテーマに共感することは難しいでしょう。