『それでもボクはやってない』実話に基づく社会化映画のあらすじ感想

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2007年公開『それでもボクはやってない』は、「Shall we ダンス?」以来10年ぶりの周防正行監督・脚本の新作。
日本の裁判、人質司法の問題点を世間に知らしめた作品です。

2002年、東京高等裁判所で逆転無罪判決が出た西武新宿線痴漢免罪事件をきっかけに痴漢冤罪に関心を持ち始めたという周防監督自らの、念入りな調査と実際の冤罪エピソードをもとに、被疑者取調べや裁判の人権軽視の実態を直球で伝えます。

2007年、アカデミー賞・外国語映画部門にエントリー、また、スイス・ジュネーブにて開催された国連の拷問禁止委員会で上映され、世界の多くの人の目に触れることになりました。

主演の加瀬亮は、本作にて日本アカデミー賞優秀主演男優賞、ブルーリボン賞にて、主演男優賞を受賞。
ごく普通の日常を過ごす20代男性が、身に覚えのない痴漢の犯人にされ、無罪を勝ち取るため戸惑いながらも戦い続け、痴漢の冤罪事件裁判の厳しさと理不尽さを身をもって知っていく様を描きます。

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『それでもボクはやってない』あらすじ


フリーターの金子徹平(加瀬亮)は朝の通勤通学ラッシュ時に電車で就職の面接に向かいます。身動きひとつとれない満員電車を降りると突然、女子中学生に痴漢だと摑まれ、言われるがまま駅員室に連れて行かれます。
何もやっていないという徹平の主張など聞き入れられず、やってきた警官に逮捕されそのまま連行されてしまいます。

被害者の女子中学生の言い分だけで、当然のように犯人扱いされ自白を迫られる中、徹平は当番弁護士の浜田(田中哲司)に事の経緯を話します。
弁護士は、否認を続ければ最低3週間は取り調べの為に留置所暮らし、しかも無罪を主張すれば1年はかかる
さらに有罪率は99,9%で無罪になる確証はないと言い、妥協し示談することを勧められます。どれだけ無罪を主張しても、徹平の言い分に耳を貸すものはおらず、途方に暮れます。

親友の斉藤達雄(山本耕史)と、徹平の母、豊子(もたいまさこ)により、荒川正義(役所広司)というベテランの弁護士が徹平の担当に付く事になりました。
早速、荒川の指示で須藤莉子弁護士(瀬戸朝香)が接見に訪れます。

須藤は痴漢などの卑劣な犯罪の弁護はしたくないと言いますが、荒川は、人質司法という卑劣なやり方に屈してはいけないと徹平の背中を押してくれたのです。

『それでもボクはやってない』ネタバレラスト

味方となり積極的に行動してくれる母と友人、荒川弁護士や須藤弁護士に加え、冤罪被害を訴える市民団体が一丸となり、徹平の無罪を証明するために協力してくれます。

しかし痴漢の無罪を証明することは難しく、徹平は呆気なく起訴されてしまうのです。
自棄になる徹平でしたが、細かい調査を続けることで徐々に警察の杜撰な捜査が明るみになり、徹平に有利な状況に傾き始めます。

徹平の無罪を心から信じ、励まし合いながら、このまま順調に進むかと思いきや、無実の人を裁いてはいけないという信念を持つ裁判官の移動によって、またしても雲行きが怪しくなってくるのです。

当初より探していた目撃者も見つかり、その女性の証言や、電車内の再現ビデオ内での犯行不可能な状況、できる限りの証明集めを試みるが、痴漢冤罪の無罪を証明することは困難極まりなく、その努力も虚しく最終判決では実刑判決を言い渡されてしまいます。

徹平は裁判官の読み上げる文書を耳にしながら、裁判は真実を明らかにする場所ではない。
被告人が有罪か無罪かをとりあえず判断する場所
であるのだと悟ります。

心のどこかで無罪なのだから裁判官にはわかってもらえるのだと信じていた心が打ち砕かれた瞬間でもありました。
真実は自分が知っているのだと、最期まで戦うことを決意したのです。

『それでもボクはやってない』見どころ3点

それでもボクはやっていないの見どころを3点紹介します。

誰の身にも起きうる出来事

最初から痴漢の犯人扱いを受けていた徹平は、何度も同じことを聞かれ、答え、罵倒され、その連続にうんざりしながらも、どこか他人事のように感じている様子がうかがえます。

真実だからこそ最終的には明らかになるだろうという表情のようにも見え、思いがけず巻き込まれそのまま渦の中に引き込まれてしまったリアリティを感じます。
だからこそ最終判決の際、ここは真実を明らかにする場所ではないと悟った彼の表情が目に焼き付き、杜撰な取り調べと裁判について問題視すべきだというこの作品の主旨が強く伝わります

また、実際におきたいくつかの冤罪事件を元に作成されただけあり、徹平の行動、裁判の成り行きが詳細に描かれています。
もし自分が巻き込まれたらと疑似体験するかのような感覚に陥るのではないでしょうか。
ごく平凡な主人公が、自分の無実を訴えながら、本来は戦わなくても良い戦いに挑むことが、何とも心苦しく今後の彼の人生を考えてしまいうのです。

知識を持ち自分を守る

誰もが法律に詳しいわけではありません。
むしろ、法律に詳しくない方が一般的なのでしょう。
冤罪は恐ろしいと漠然に知っていても、こんな時どうしたらいいのか、誰にいつどうやって連絡し、誰に相談すればよいのか、素直に応じることが有利なのか、何が不利になるのか・・・。
経験者でもなければ事の流れを説明できないことでしょう。

達雄が親友の裁判を通し、法を知り知識を得たことからも感じるように、何についてでも身近な人がその状況になったからこそ、初めてその内側を知ることになるものでしょう。
何事に対しても意識を持ち、知識を身に付けることは自分の身を守る一つの方法だと教えられます

当番弁護士

ストーリーの中で多くは語られませんが、ただ形だけの処理をするやる気の見えない弁護士という印象の浜田弁護士。
後半で彼の事情を知り、彼の気持ちにも迷いや人間的な感情があることがわかります

そんなメンタルでは裁判で無罪を勝ち取ることはできないとは理解はできますが、誰かを助けたい、真実を明らかにしたいという強い思いがあればあるほど、現実にある法律の問題点に心底絶望を感じてしまうのかもしれません。
綺麗ごとだけで人の人生を左右できないというやるせなさや強い思いを彼の中に感じることができます。

『それでもボクはやってない』感想

痴漢に間違われた時は逃げるしかないと聞いたことがありませんか。
なんて非常識な方法なのだと思ったことを覚えていますが、この作品を見て、もし身内が巻き込まれたときはそうしてほしいと思うことを否定できません。

逆に、立場こそ違えば逃げるなんてもってのほか、しっかり捕まって重罪になれば良いと思うのでしょう。実際勝手な言い分ですが、結局、罪を犯す人を罰すことが必要なのです。

しかし、実際、何の罪もない人を巻き込む冤罪は思うより身近に存在しています。
漠然としていた冤罪の怖さをはっきりと感じる事ができるでしょう

まるで捕まってしまった事が運が悪いとでもいうような裁判。
そして本当に犯罪を犯していないものに対する人権のない扱い、実際の痴漢犯人は捕まらず、また同様の被害者を出している可能性もあり、当然被害者はなくならないという現実。

腐った悪循環は確かに存在しながら、でも、そこに関わる多くの人の優しさにも目を向けてほしいところです
1人1人の心は優しく情に溢れているのに、非情な裁判制度が出来上がってしまっていることもしっかりと感じとってほしいところです。

『それでもボクはやってない』総括

周防監督の思惑通り、後味の悪さが残る作品です。
一方では加害者を守り、そして一方では杜撰な捜査によって偽の加害者を生み出し、納得のいく結末には結び付きません。
真実を伝えることはこんなにも困難なのだと思い知らされます。

心に深く傷を負った女子中学生だけではなく、彼の今後の人生を思うと切なさで胸が痛くなる作品です。
しかし、ここには確かに時を忘れ見入ってしまう社会的なメッセージ性が強く表現され、どうしても作りたかったという周防監督の想いがふんだんに伝わる作品でもあるのです。

金子徹平は一体どうしたらよかったのでしょうか
何事もなかったかのように早く暮らせるよう、やってもいない罪を認めてお金を払い、示談すればよかったのでしょうか。
掴まれた手を振り払い必死で逃げればよかったのでしょうか。それとも他に方法があったのでしょうか。

この作品を見る前と見た後では、思うことは同じでしょうか。
いつ降りかかるかわからない身近な冤罪の今あるべき姿を思い知る映画です。

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