映画「男はつらいよ」のタイトルを知らない人、また、渥美清演じる車寅次郎こと寅さんの風貌を知らない日本人は、まずいないでしょう。

1969年(昭和44年)に映画第1作が公開され、2019年12月27日には「男はつらいよ お帰り寅さん」が22年ぶりに公開される事になりました。

『ひとりの俳優が演じた、最も長い映画シリーズ』としてギネスブックにも認定されている作品です。

しかし、タイトルは知っていても、作品自体を余り観た事が無いと言う方が、多いのではないでしょうか?

観る順番で悩む人は多いですが、結論から言えば第1作から順を追って観るのも良しですが、どの回から見ても、楽しめるシリーズです。

なぜなら、寅さんと毎作異なったマドンナとの1話完結の恋物語もあるヒューマンドラマだからです。

「男はつらいよ」の魅力とお勧めの作品などを、紹介しましょう。

男はつらいよとは?

テレビドラマから、映画へ。

元々はフジテレビで放映されていた、ドラマでした。
(1968年10月3日~1969年3月27日まで毎週木曜日22時00分 - 22時45分の放送)

「フーテンの寅」こと車寅次郎が、故郷の葛飾柴又に戻っては周りの人達を巻き込んで騒動を起こし、毎回旅先で登場するマドンナと恋に落ちては成就しないを繰り返す、テレビドラマでした。
最終回で寅さんは、ハブ酒で一攫千金を狙おうと奄美大島へ旅立ちましたが、そこでハブに咬まれて死ぬと言う残酷なラストを迎えてしまいます。

反響の大きかったドラマの残酷な最終回に怒った視聴者からは抗議が殺到します。
これが、映画化のきっかけに繋がりました。

最初は『愚兄賢妹』と言うタイトルが予定されていたそうです。
渥美清の主演ドラマ「泣いてたまるか」の最終回が「男はつらい」と言う題名で、それを見た山田洋次が、タイトルに引用したとも言われています。

初回と最終回しか現存していないドラマ版は、後にDVD化されました。

山田洋次監督作品と思われがちですが...

「監督:山田洋次」のイメージが強いシリーズですが、全作品を監督していません。
第3作「男はつらいよ フーテンの寅」は、森崎東。
第4作「新・男はつらいよ」は、小林俊一が、監督を務めています。

当初はシリーズ化を念頭に置いていなかった為、山田洋次が監督を任せた様です。

「男はつらいよ」初心者に送る、観るならこの10本から

全48作+特別編が制作された「男はつらいよ」
これだけのシリーズだから、第1作目から順番に観賞しなくちゃいけないのかな?と思う初心者の方もいるでしょう。
勿論、第1作目から順番に観賞する方法もありますが、どの作品から観始めても、寅さんの魅力は充分に伝わります。

そこで、シリーズの中から、初心者におすすめしたい10本を全作品を何度も観た私が抽出してみました。

>>映画『男はつらいよ』登場人物・キャスト紹介

「男はつらいよ(第1作)」(1969年)マドンナ・光本幸子

【主なロケ地:奈良県】
暫くぶりに故郷の柴又帝釈天に現れた寅さんは、とらやにて、義理の妹・さくらと再会する。
さくらがお見合いをすると知り、親族の立場でついて行くが、その席をぶち壊してしまう。

そして旅に出た寅さんは、奈良で、幼馴染でもある午前様の娘・冬子と出逢い、ひと目惚れをする。
さくらは、とらやの裏の印刷工場で働く博にプロポーズをされ、これを承諾する。
そして寅さんは、冬子にフラれてしまう...

全てが凝縮された第1作

ひょっこりと柴又に現れては騒動を起こす・さくらを想う気持ちは人一倍強い・おいちゃんおばちゃんタコ社長との喧嘩が絶えない等と、喜劇要素がふんだんに詰まった第1作には、後のシリーズに受け継がれる設定が、沢山詰め込まれています。

寅さんがグレーのジャケット・ワイシャツにネクタイ・革靴姿、怒った寅さんがさくらに手を挙げると言った、後のイメージから程遠くなった設定が観られるのも、第1作ならではです。

「続・男はつらいよ(第2作)」(1969年)マドンナ:佐藤オリエ

【主なロケ地:三重県・京都府】
寅さんは葛飾商業の恩師・坪内散歩先生(東野英治郎)を慕っていた。
1年ぶりに柴又に戻った寅さんは、先生と、その娘・夏子に再会する。
寅さんは胃けいれんで入院するが、病院を脱走し、その出先で無銭飲食の騒動を起こしてしまう。居たたまれなくなった寅さんは柴又を後にして京都へ旅立つが、そこで偶然夏子と再会し、やがて、実の母に逢いに行く事になる…。

寅さんの実の母とは?
車寅次郎の母が登場します。
気性が激しいせいで、口にする関西弁も荒っぽいと、寅さんが夢に描いていた母親像とは程遠い女性でした。
しかし、息子を思う気持ちだけは人一倍強く、後には母子で旅をするシーンも登場します。演じるのは、関西を代表する女優・ミヤコ蝶々。
口はきついが、寅を思う気持ちが強い母を演じています。
散歩先生とその娘に惚れる設定は、テレビドラマ版の延長で、キャストも同じです。

「男はつらいよ 寅次郎相合い傘(第15作)」(1975年)マドンナ:浅丘ルリ子

【主なロケ地:青森県・北海道】
寅さんは、青森県でサラリーマン・兵動謙次郎(船越英二)と出会う。
男は東京の生活に疲れて失踪し、初恋の女性に逢いに北海道へ向かっていた。
函館に行った2人が屋台のラーメン屋にいると、寅さんと逢いたがっていたリリーと再会する。

寅さんはリリーと一緒に男の手助けをするが、男と女の感情の違いを語り出すうちに喧嘩となり、道内で別れてしまう。
しかし柴又に戻ると、寅さんとリリーの再会が待っていた...

寅のアリア
物語の終盤。
とらやでは兵動がお礼に持って来たメロンを、寅さんの留守中に家族で食べるシーンが登場します。
しかし、寅さんの分を切り忘れたと気づいた矢先に寅さんが帰宅。
自分のメロンが無いと怒り出す寅さんは、ここから、人生訓の様な事を語り出します。これが「寅のアリア」と呼ばれている、男はつらいよを代表する名シーンです。
寅さんを叱るリリーとの掛け合いも注目ですが、一瞬だけ披露する博の声真似が、よく似ています。
男はつらいよシリーズの中で、最高傑作とも謳われている作品です。

「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け(第17作)」(1976年)マドンナ:太地喜和子

【主なロケ地:兵庫県】
上野の飲み屋で、一見みすぼらしい老人(宇野重吉)と逢った寅さんは、意気投合した末に、とらやへ連れて行き、1泊させる事に。
翌日、横柄な態度で迷惑をかけたとばかりに、老人はサラッと一枚の画を描き、差し出す。

落書きの様な画を古書店に持って行くと、想像以上の高値で買い取ってもらい、寅さんは驚く。
老人は、日本画壇を代表する画家・池ノ内青観だった。

旅に出た寅さんは、播州で池ノ内画伯と再会する。
その旅先には、悪い男に200万円騙し取られた芸者・ぼたんがいた。
その理不尽さに怒った寅さんは、ぼたんの為に、池ノ内画伯の元に出向き、ぼたんの借金返済の為に、画を1枚描いてくれないかと懇願をする...

フラれない寅さん
「寅さんはいつも、マドンナにフラれて終わる」との先入観がありますが、この作品は、シリーズの中では数少ない、フラれずに終わる回です。
失恋シーンを見ると心が痛むと言う方には、この作品がオススメでしょう。
観光係員の役で、宇野重吉の息子・寺尾聰が出て来るのも、見どころです。

「男はつらいよ 寅次郎と殿様(第19作)」(1977年)マドンナ:真野響子

【主なロケ地:愛媛県】
仕事で愛媛県大洲市に現れた寅さんは、旅館女性・鞠子と知り合う。
女性は何かわけ有りの様子。
青砥に住み、とらやを知っていると聞いて、寅さんは驚く。

その翌日、大洲城の近くで、世間ずれした様に見える老人と出逢う。
老人が歩く度に周囲が丁寧な応対をする事に不思議がる寅さん。
実はこの老人は、地元の名士・大洲の殿様の子孫・藤堂久宗だった。
殿様と呼ばれていた藤堂は寅さんを、いたく気に入る。

藤堂は、亡くなった次男の嫁にどうしても謝りたいから探してくれと、寅さんにお願いをする。
安請け合いしてしまった寅さんだが、必死に探すうち、旅館で知り合った鞠子がとらやに現れる。
この鞠子こそが、藤堂が探していた、次男の嫁だった...

江戸川の夕焼け

寅さんと江戸川のシーンは毎回出て来ますが、一瞬だけ映る、江戸川の綺麗な夕焼けが見られるのは、この作品だけです。

殿様を演じているのは、鞍馬天狗で一世を風靡した往年の大スター・嵐寛寿郎。

オープニングの夢シリーズは、勿論、鞍馬天狗。
渥美清が大先輩に敬意を表した作品とも取れます。

「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎(第27作)」(1981年)マドンナ:松坂慶子

【主なロケ地:大阪・対馬】
旅先の瀬戸内海で寅さんは、墓参りをするふみと出逢う。
身分を明かさなかったふみの職業は芸者。仕事先の大阪で寅さんは、ふみと再会を果たす。

ふみの両親が離婚した時に行き別れた弟がいた事を知った寅さんは、勤め先を見つけて2人で向かう。
しかし、弟は亡くなったばかりだった。
寅さんの優しさに寄り添うふみだったが、寅さんは躊躇し、ふみと別れてしまう...

コメディアンたちとの共演
この回では芦屋雁之助・笑福亭松鶴・大村崑と言った関西の喜劇人・落語家と共演しています。
渥美清は元々コメディアンの出身。初期には落語家・柳家小さんとも共演を果たしています。
この様な回は、随所に見られます。

「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎(第32作)」(1983年)マドンナ:竹下景子

【ロケ地:岡山県】

岡山に現れた寅さんは、博の父の墓が近くにある事に気づく。
寺まで足を運び墓参りをした後、和尚と仲良くなり、泥酔し二日酔いで倒れた和尚の代わりに、法事に行く羽目になる。
ところが、見よう見まねで唱えた御経とアドリブで放った法話が気に入られ、寅さんは一躍、人気者の和尚に祀り上げられる。

博の父の法事に、柴又からさくら達がやって来て、僧侶姿の寅さんと思わぬ再会をする。
この寺には、和尚の娘・朋子がいた。朋子は出戻りだが、父の面倒を見るしっかり者。
寅さんは案の定、恋に落ちる。そして朋子も、寅さんに好意を持つまでになった...

恋に見切りをつける寅さん
この作品では、寅さんが自ら、恋に見切りを付けてしまいます。
フラれてばかりいる寅さんが、自分からピリオドを打ちに行く回も、何作かあります。
寅さんに未練を残したまま柴又を去る竹下景子の可愛らしさが光る、見切りをつける回の中でも秀逸な作品です。

「男はつらいよ 幸せの青い鳥(第37作)」(1986年)マドンナ:志穂美悦子

【主なロケ地:山口県・福岡県・神奈川県】
福岡県飯塚に現れた寅さんは、嘗て贔屓にしていた旅回りの一座の座長が亡くなったのを知る。
義理堅い寅さんがお悔やみに行くと、花形女優だった大空小百合こと、美保がいた。
沈んでいた美保を慰める為に、とらやに誘う寅さんだった。

美保はその言葉を信じて、とらやに行く。しかし寅さんは、たまたま不在。
更に気落ちした美保だったが、そこでたまたま、映画の看板屋で働く青年・健吾と出逢う。ひと晩、健吾の部屋で厄介になる。
健吾は美術展に作品を出展しては落選続きで、毎日くすぶっていたところだった。

互いの事情を理解し合った2人の仲は、深まって行く。
美保の働き先を探したり、2人の仲を取り持ったりと、美保の手助けに奔走する寅さんだった...

異色のキャスト
俳優活動をしていた、長渕剛が登場します。
歌手のイメージが強い世代にとっては、異色に映るかもしれません。当時、ドラマ「親子ゲーム」で共演した志穂美悦子と再共演し、後に、実生活でも結婚をしました。
旅回りの一座の設定は、初期の頃から登場します。
ラストシーンで旅先に出る寅さんの元に、偶然通りかかるトラックが、この一座です。

「男はつらいよ ぼくの伯父さん(第42作)」(1989年)マドンナ:後藤久美子

【主なロケ地:茨城県・佐賀県】
浪人生となってしまった満男は、泉への恋心が芽生え、勉強どころではなくなってしまう。
さくらや博に叱られるが、寅さんは満男を連れ出し、恋について説教をする。
それは満男にとっても何よりの勉強となり、満男は寅さんに惹きつけられて行く。

泉が佐賀に帰っている事を知った満男は、バイクを飛ばして、泉に逢いに行く。
途中でアクシデントに襲われたが、佐賀の宿に着いて相部屋になった処には、寅さんがいた。

翌日、2人で泉の家へ行き、再会を果たす。
家の者に嫌味を言われるが、それを寅さんがかばい、満男と泉の恋の見届け人となって行く。
明けて正月。
満男が自宅に戻ると、自分の部屋に泉がいた...

シフトチェンジ
この作品から寅さんの恋物語から満男の恋物語へと変わります。
寅さんが恋愛のアドバイスをしたりと、見届け人の様な役割になります。
当時61歳になる渥美清に振られ役を演じさせるのが辛くなったことに加えて、体調も考慮しての判断が、背景にあった様です。泉役は、後藤久美子。
2人の恋の行方が、48作までを支えて行きます。
マドンナと銘打ってますが、満男にとってのマドンナになります。

「男はつらいよ 寅次郎紅の花(第48作)」(1995年)マドンナ:浅丘ルリ子

【ロケ地:岡山県・奄美大島】

阪神大震災のニュースを見ていたら、ボランティア活動をする寅さんの姿が!
安否を気にしていたとらやの人達は、ひと安心する。

一方で、泉の結婚を知ったサラリーマンの満男は岡山・津山まで行き、結婚式をブチ壊してしまう。
取り返しのつかない事をした満男は絶望し、会社を放り出して、奄美大島にやって来る。
乗り合わせた船には、寅さんの恋人・リリーが住んでいた。

リリーが住む家には、寅さんが転がり込んでいた。
成長した満男にやっと気づいたリリーは、再会を喜ぶ。
そして後日、泉までが奄美大島にやって来る...

渥美清の遺作・阪神大震災
渥美清の遺作となってしまった作品です。
奄美大島にいる寅さんは、余り動かず、痩せて疲れた風貌に見えます。マドンナ役の浅丘ルリ子も感ずるものがあったらしく「寅さんと結婚させて」と山田洋次に直訴しましたが、却下されたと言うエピソードがあります。

この年に、阪神大震災が起きました。
被災地から「寅さんに来てほしい」との要望が多く寄せられ、この設定が実現したそうです。
震災直後の神戸の様子が、画面に残されています。

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